2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けた挑戦グリーンイノベーション基金とは

グリーンイノベーション基金とは

2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げました。
この宣言を踏まえ、経済と環境の好循環につなげるための日本の新たな成長戦略として、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定され、企業の野心的な挑戦を後押しすべく、過去に例のない2兆円(2021年3月時点)の「グリーンイノベーション基金」がNEDOに創設されました。 今回は、このグリーンイノベーション基金についてご紹介します。
※令和4年度第2次補正予算により3000億円が積み増しされており、さらに令和5年度当初予算により4564億円が積み増しされます(2023年7月時点)。

カーボンニュートラルに向け、今、世界が動き出している

グリーンイノベーション基金で目指す「2050年カーボンニュートラル」。カーボンニュートラルとは、様々な経済・社会活動を行う中で排出される温室効果ガスを「実質ゼロ」にすること、言い換えると、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロ」にすることを意味します。
20世紀後半以降、地球温暖化による自然災害が年々増加している中で、世界各国でカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが加速しています。たとえば、これまでに日本を含む150ヶ国以上が、期限を定めてカーボンニュートラルに向けて取り組むと表明しています(2021年11月時点)。

■地球温暖化対策に関するこれまでの主な国際的な枠組

1997年
京都議定書
  • 国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択
  • 参加する先進国に対して、「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で少なくとも5%削減すること」を求める
2015年
パリ協定
  • 国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)で採択
  • 参加国に対して「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことを求める
  • 今世紀後半のカーボンニュートラルの実現

京都議定書では温室効果ガス排出削減義務の対象が一部の先進国に限られていたのに対し、パリ協定では先進国だけではなく、途上国を含むすべての参加国に対して排出削減の努力を求める点が画期的でした。さらに、2021年に英国グラスゴーで開催されたCOP26で採択された成果文書では、「世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求することを決意する」ことが明記されました。

このような国際的な動きの中で、日本は2015年に国連に提出したNDC(Nationally Determined Contribution)に基づいて「2030年度までに、2013年度比で温室効果ガスを26%削減」を目標として設定しました。さらに2020年には「2050年カーボンニュートラル」の実現を宣言し、2021年には「2030年度の温室効果ガスの削減目標を2013年度比46%削減」する野心的な目標を掲げ、NDCに基づく目標として設定しました。日本においても、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを深化し、具体的な行動を起こさなくてはならない段階を迎えているのです。

日本で始動、「経済と環境の好循環」の創出に向けた取り組み

従来行われてきた環境問題対策の多くは、取り組む企業や団体にとって「コスト」となり、成長の制約につながってしまうと捉えられてきました。しかし、「2050年カーボンニュートラル」では、こうした取組を「成長の機会」と捉えるという、大胆な発想の転換に言及しました。積極的な対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらすと共に、次なる成長につながる「経済と環境の好循環」を作っていく新たな産業政策として、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されたのです。

カーボンニュートラルの実現にあたっては、企業等の従来のビジネスモデルや戦略を抜本的に変えていく必要があり、実現に向けたハードルは高いといわざるを得ません。これを乗り越えていくためには、国として、可能な限り具体的な見通しを示し、高い目標を掲げて、民間企業が挑戦しやすい環境を作ることが必要です。そこで、グリーン成長戦略では、今後成長が期待される14 分野(表1参照)を示し、各分野で目指すべき高い目標を設定すると同時に、予算、税、規制・標準化、民間の資金誘導など、政策ツール(表2参照)を総動員して企業等の取組を全力で後押ししていくことを掲げています。こうした取組により、2030年で年額約140兆円、2050年で年額約290兆円の経済効果を見込んでいます。

■グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点14分野(表1)

グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点14分野(表1)

■グリーン成長戦略の主な政策ツール(表2)

予算
  • グリーンイノベーション基金
    (多様な主体が関与できる柔軟な仕組み作り、基金事業の運営に関する基本方針策定)
税制
  • カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
  • 繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例
  • 研究開発税制の拡充
金融
  • 円滑な資金供給に向け、ガイドラインやロードマップを整備
  • グリーンボンド等の社債等取引市場を活性化・サステナビリティに関する開示を充実 等
規制改革
・標準化
  • 新技術の需要を創出するような規制の強化、新技術を想定していない不合理な規制を緩和
  • 新技術を世界で活用しやすくするような国際標準化
  • 成長に資するカーボンプライシング
国際連携
  • 日米・日EU間の連携強化
  • アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ
  • 東京ビヨンド・ゼロ・ウィークを通じた国際発信

過去に例のない2兆円規模で挑む、グリーンイノベーション基金事業

カーボンニュートラル実現に向けた国の取り組みの中で主要な役割を果たすのが、NEDOに創設された総額2兆円(2021年3月時点)の「グリーンイノベーション基金」です。研究開発・実証から社会実装までを見据え、官民で野心的かつ具体的な目標を共有し、企業等の取り組みに対して最長10年間の継続的な支援を行っていきます。

経済産業省は、基金事業における支援対象、成果を最大化するための仕組み及び実施体制等、各研究開発分野に共通して適用する事業実施に係る方針を「基本方針」として定めています。主な内容として、支援対象は、グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点14分野(表1参照)または「GX実現に向けた基本方針」に基づく今後の道行きが示されている主要分野であり、必要な領域に重点化して支援することとしています。 また成果の最大化に向け、実施主体となる企業の経営者に、経営課題として取り組むことへ強いコミットメントを求める仕組みとして、①取組状況が不十分な場合の事業中止・委託費の一部返還や、②目標達成度等に応じて国費負担割合が変動する、成功報酬のようなインセンティブ措置の導入等を盛り込んでいることも本基金事業の大きな特徴です。
※令和4年度第2次補正予算により3000億円が積み増しされており、さらに令和5年度当初予算により4564億円が積み増しされます(2023年7月時点)。

「グリーンイノベーション基金事業」の概要(表3)

支援対象

グリーン成長戦略の実行計画を策定している重点分野または「GX実現に向けた基本方針」に基づく今後の道行きが示されている主要分野において、野心的な2030年目標(性能、コスト、生産性、導入量、CO2削減量等)等を目指すプロジェクト。

対象事業者

社会実装までを視野に入れた事業であるため企業等が対象。中小・ベンチャー企業の参画も促進、大学・研究機関の参画も想定。

プロジェクト
期間

最長10年間。研究開発・実証から社会実装まで長期間にわたる継続的な支援が必要である野心的な取組を支援することに主眼があることから、支援が短期間で十分なプロジェクトは対象外。

プロジェクト
規模

従来の研究開発プロジェクトの平均規模(200億円程度)以上が主な対象と設定。ただし、新たな産業を創出する役割等を担う、ベンチャー企業等の活躍が見込まれる場合、この水準を下回る小規模プロジェクトも実施可。

支援スキーム

プロジェクトには国が委託するに足る革新的・基盤的な研究開発要素を含むことが必要。また、プロジェクトの一部として補助事業も実施し、補助率等は取組内容に応じて設定。

基金事業の詳細は、「グリーンイノベーション基金事業の基本方針」をご参照ください。

この他にも、グリーンイノベーション基金事業では、各プロジェクトの取り組み状況や関連技術・市場の動向等を「ダッシュボード」として見える化して公開するなど、カーボンニュートラルに向けた企業や投資家等の皆さまのアクションを後押しする取り組みを行っていきます。

ダッシュボード

「2050年カーボンニュートラル」という野心的な目標を達成するため、大胆な投資をし、イノベーションを起こすといった民間企業の前向きな挑戦を、政府は全力で応援していきます。ぜひ今後も、グリーンイノベーション基金事業の取り組みにご注目ください。

最終更新日 2024/02/01(作成日 2021/12/20)