グリーンイノベーション基金事業でCO2等を用いた燃料製造技術の開発を加速

CO2等を用いた燃料製造技術の開発を加速

カーボンニュートラルの実現に大きく寄与する燃料について、記事「これからの社会に求められる新たな燃料 水素・二酸化炭素・バイオマス由来原料を使う燃料が未来を支える」でご紹介してきました。飛行機と自動車では適する燃料の種類が違うように、用途によって燃料を使い分ける必要があります。つまり、カーボンニュートラルの実現に向けては、多様な化石燃料に代替できるような、多様な燃料を新たに開発していくことが必要なのです。

グリーンイノベーション基金事業では、並行して「大規模水素サプライチェーンの構築」ならびに「燃料アンモニアサプライチェーン構築」に関するプロジェクトを行っています。水素やアンモニアを燃料として使うためのプロジェクトですが、水素やアンモニアでは現行の化石燃料の代替にしづらい領域もあります。そこで、カーボンニュートラルの実現に大きく寄与する燃料を新たに複数開発するために、「CO2等を用いた燃料製造技術開発」プロジェクトを立ち上げました。ここでは4つの技術開発テーマを扱っています。プロジェクトを推進する方々に、進捗を伺いました。

カーボンニュートラルの実現に大きく寄与する燃料の実用化に向けて

――CO2等を用いた燃料製造技術開発に取り組む背景を教えてください

永井 岳彦氏(以下、永井氏):CO2等を用いた燃料製造は、自動車やガソリンスタンドなど現在のインフラを活用しながら化石燃料からの脱却を可能にする選択肢として、重要なテーマだと捉えています。特に、「CO2等を用いた燃料製造技術開発」プロジェクトでは、CO2や水素、バイオマス由来エタノール等を原料とする燃料の製造技術開発の取り組みを進めています。電動化では対応が難しい、大型で長距離輸送の領域や、高温が必要になる産業分野に適していることから、重視している燃料です。
具体的には、ガソリンや軽油の代替燃料となる「合成燃料」、ジェット燃料の代替燃料である「SAF(Sustainable Aviation Fuel/持続可能な航空燃料)」、都市ガス代替である「合成メタン」、LPガス代替である「グリーンLPガス」という4つの脱炭素燃料について、本プロジェクトで開発を進めています。

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料5「『CO2等を用いた燃料製造技術開発』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p6を参考に作成

――全体としての進捗はいかがですか

永井氏:どの燃料も製造するための基礎的な技術は確立されています。しかし実用化を進めていくうえでは、低コストで安定的な量を生産できるような製造技術の確立が必要です。さらに、原料の安定的な確保や、活用する市場創出も進めていく必要があります。
原料調達に関しては、水素製造等、他領域との連携も必要になるでしょう。特に合成燃料等はCO2自体が原料となりますので、CO2分離回収プロジェクトとの連携も進めています。

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料5「『CO2等を用いた燃料製造技術開発』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p7を参考に作成

――4つのプロジェクトで開発を行っている燃料について教えてください

定兼 修氏(以下、定兼氏):「合成燃料」と「SAF(持続可能な航空燃料)」が液体燃料、「合成メタン」「グリーンLPガス」が気体燃料です。液体燃料は主に長距離輸送の燃料用、気体燃料は家庭用・産業用のエネルギー源として使われます。共通しているのは、CO2を追加発生させない原料を使うということです。リサイクルして使うCO2や動植物をもとにしたバイオマスから精製されるエタノール、あるいは水素を使い、新しい燃料を作り出していきます。

液体燃料の特徴と開発の進捗

――製造技術の開発において、CO2を原料とする液体の合成燃料製造は、どのような難しさがあるのでしょうか

定兼氏:ここで技術開発を進めているのは、CO2と水素(H2)を合成して液体燃料を作る技術です。
CO2と水素から液体燃料を作る方法として、合成ガス(COと水素の混合ガス)を作り、その後、合成ガスから触媒反応によって液体燃料へ転換する手法が知られています。ただしこれは、大規模で一貫した製造プロセスとしての実績はなく、また、効率性が高くないという課題がありました。効率性をあげるには、CO2と水素から合成ガスに転換する過程と、合成ガスを液体燃料に転換する過程それぞれを改善する必要があります。反応を加速させる触媒の開発や、温度等の最適条件の研究、それらを量産するための設備等について、今まさに取り組んでいます。
なお、合成ガスへの高効率な転換方法として「CO2電解」「共電解」といった新しいプロセスが見出されています。また、合成ガスに転換せず、CO2と水素から直接合成燃料を作る方法も、研究されています。現在NEDOでは、こうした革新的な製造プロセスの可能性を探り、いかに液体燃料に転換する率を高められるかという取り組みも進めています。

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料5「『CO2等を用いた燃料製造技術開発』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p25を参考に作成

――「SAF(持続可能な航空燃料)」の場合はいかがでしょうか

永井氏:航空業界の国際機関であるICAO(国際民間航空機関)は、航空分野のCO2排出量削減に向け、2022年の総会において、「2024年以降のCO2排出量を、2019年の85%未満に抑える」という厳しい枠組が採択されました。航空燃料のカーボンニュートラルを、できるだけ早期に実現することが求められます。

原 知昭氏:これまでもSAFの製造技術の確立に向け、継続的な取り組みを行ってきましたが、今回のグリーンイノベーション基金事業では、将来的に大規模な生産量が見込めるとともに、様々な原料からの燃料製造にも応用の可能性がある「Alcohol to Jet(ATJ技術)」という技術に取り組んでいます。
ATJ技術は、アルコールの一種であるエタノールを原料としています。そこから燃料にするためには、触媒反応によってまずエチレンという気体に変換し、再度触媒を用いてジェット機用の液体燃料に転換するプロセスが必要です。商用化していくためには、エタノールからエチレンへ、そしてエチレンからSAFへの転換効率(収率)をどれだけあげられるかがポイントとなります。特に製造設備を大型化した際に、反応が不均一となり効率が落ちることも想定されており、収率の向上と大型化対応を同時に進める必要があります。
今回のプロジェクト目標としては、液体燃料収率が50%程度で、製造コストが1リットル当たり100円台の実現を目指しています。

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料5「『CO2等を用いた燃料製造技術開発』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p49を参考に作成

気体燃料の特徴と開発の進捗

――「合成メタン」は、どのような展望なのでしょうか

福田 光紀氏:水素とCO2を人工的に合成してできる合成メタンは、既存の都市ガスインフラを活用できるといった点から、2050年における都市ガスのカーボンニュートラル化の達成に向けて、非常に重要な選択肢です。まずは2030年には既存の都市ガスインフラに合成メタンを1%注入することを目標に取り組んでいますが、今後の利用拡大のためには、その製造コストの低減が不可欠です。そのため、グリーンイノベーション基金を活用し、2050年の段階で、現在の天然ガス価格と同水準である40~50円/Nm3(ガスを換算する単位)にすることを目指しています。

――開発の進捗を教えてください

定兼氏:これを実現するためには、現行よりも高いエネルギー変換効率の実現が必要です。現在、メタネーションと呼ぶメタン合成技術には、サバティエ反応(水素とCO2を高温高圧環境下で反応させてメタンと水を得る反応)、電解を利用する方法、膜を用いる方法など複数の手法があります。また、化学反応で発生する熱を利用したプロセスの効率改善に取り組んでいる研究もあります。ただし、いずれも個別技術の開発が終了した段階で、実用化するためには量産できるような開発・実証を続ける必要があります。この段階では技術を絞り込まず、将来的な実用化が見通せる複数の技術について、グリーンイノベーション基金事業において、取り組んでいます。

引用元:経済産業省 資源エネルギー庁 第6回エネルギー情勢懇談会 資料7「脱炭素化に向けた次世代技術・イノベーションについて」p48を参考に作成

――「グリーンLPガス」はどのような展望なのでしょうか

日置 純子氏:現在使われているLPガスは、全世帯の約4割の家庭に供給されており、また工業用や化学原料用等、多岐にわたる分野を支えています。将来的には、既存のLPガス燃料の置き換えによりカーボンニュートラルに寄与していくとともに、グローバルな市場展開を見込んでいます。たとえばアジアは、近年LPガス市場が拡大しています。グローバルに向けたライセンス展開なども見据えながら、実証を2030年に完了させる予定です。

――開発の進捗を教えてください

定兼氏:グリーンLPガスは、水素と一酸化炭素を原料として作ります。この原料となる水素と一酸化炭素ですが、水と二酸化炭素を反応させたり、バイオマス等の有機系の廃棄物から抽出したりと、複数の方法で生成することが可能です。
グリーンイノベーション基金事業では、新触媒を使った革新的プロセスづくりに取り組んでいます。目標生成率を達成できるよう、さらに触媒の開発やプロセス改善を進めていきます。また、事業化に向けては、合成時に含まれる不純物等の除去も必要になってきます。生成率を落とさずに年間1,000トンの製造を可能にするよう、生産設備の開発も今後進めていく予定です。

引用元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)2022年4月19日発表資料別紙2「事業概要資料」p6を参考に作成(出典元:古河電気工業株式会社)

期待される効果とこれからの展望

――CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトが進むことで、どのような効果が期待されていますか

永井氏:各項目の技術開発が進み、CO2等を用いた燃料製造技術が確立することで、2030年時点では約600.8万~943.8万トンのCO2削減、2050年では約3.2億トンのCO2削減が、世界全体で進むと見込んでいます。
同時に、今回のテーマとなっている技術がすべて商用化されると、2030年までの累計で約2,704億~1.1兆円、2050年までの累計で17.1兆円の経済波及効果も起こると想定しています。たとえば合成燃料の場合、必要とされるガソリン・軽油需要をすべて合成燃料に代替した場合で試算し、合成メタンの場合は都市ガス需要に対して置き変わった分の市場規模で試算しました。

――今後のプロジェクトの展望をお聞かせください

永井氏:各燃料の原料となる水素やCO2調達に向けては、「大規模水素サプライチェーンの構築」や「再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」、「CO2の分離回収技術開発」といったプロジェクトとも連携しながら進めていく予定です。脱炭素燃料の確立と早期普及は、我が国の脱炭素化を進めると同時に、産業の国際競争力を高める上でも重要です。

たとえば、SAF(持続可能な航空燃料)を国内製造することができれば、農業や紙・パルプ産業など他産業と連携した新たなサプライチェーンが構築されるとともに安定供給も図れます。また、国内で製造したSAFを輸出し、またはその生産ノウハウを海外に展開できれば、外貨獲得への貢献も期待されます。さらに、国際標準化等もリードできるでしょう。関係機関の力を結集して、実用化に向けて取り組みを進めていきます。

最終更新日 2024/03/19