~石炭火力発電・ガスタービン・船舶用エネルギー・工業炉等での活用へ~アンモニアを燃料としてカーボンニュートラルの実現に貢献!

アンモニアを燃料としてカーボンニュートラルの実現に貢献!

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2を発生しない燃料に大きな期待が寄せられています。
その燃料候補の1つが、アンモニアです。
現在はその多くが、肥料や化学製品の原料(原料アンモニア)として使われています。燃料用途はこれからですが、アンモニア自体は長年社会のなかで使われており、貯蔵や運搬技術は既存技術を応用できるのが利点の1つです。

燃料としての使い方は、まだ技術開発が続いています。
そもそもアンモニアが注目されている理由はなにか、燃料として使うためのハードルがどこにあるかといった点を、ご紹介します。

なぜアンモニアが注目されているの?

アンモニアは、常温常圧では無色透明の気体ですが、特有の強い刺激臭があります。アンモニアの分子式は「NH3」で、窒素原子(N)と水素原子(H)で構成されています。
畑にまく化学肥料の素にアンモニアが使われていますが、これは植物の成長に窒素が必要だからです。空気中にたくさんある窒素をどうやったら養分に変えられるだろうかというところから、ハーバー・ボッシュ法というアンモニアの合成方法が20世紀初頭に開発されました。大量・安価に生産できるため、今日まで使われている製法です。

身近だけど実は知らないアンモニアの利用先 引用元:資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ記事「アンモニアが”燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」」掲載図を参考に作成

アンモニアが注目される理由が大きく3つあります。

1つめは、燃やしても二酸化炭素が発生しないという点。
NH3という分子式に見られる通り、アンモニアには炭素(C)が含まれていません。いくら燃やしてもCO2が出ないのは、次世代エネルギーとしてとても魅力的です。また、アンモニア単体で燃料にするだけではなく、石炭などに混ぜて使うこともできます。使う化石燃料の量が減れば、その分CO2の排出削減が進みます。

2つめに、基本的な運搬方法が確立されている点。
肥料等に使うためのアンモニアは、工業原料として大量につくられ、実際に使われてきました。アンモニアを燃料として利用する場合においても、従来利用されてきた設備を活用できます。特に運搬には既存のケミカルタンカーが使えることから、特殊な容器開発などに追加コストがかからないという利点もあります。

3つめに、アンモニアは水素の製造にも活用できる点。
次世代エネルギーの選択肢として、他に有力な候補にあがっているのが水素です。ただし、水素をそのまま単体で大量に運搬するためには、液化や高圧化する必要があり、極低温化するための設備や、相当量のエネルギーが必要になります。アンモニア(NH3)は窒素原子(N)と水素原子(H)で構成されていますので、分解すれば水素(H2)を取り出すことができます。アンモニアも液化して運搬することにはなりますが、水素と比較して少量のエネルギーで運搬できます。そこで、水素を運ぶ手段(水素キャリア)としてアンモニアを活用する方法も検討が進んでいます。

このように燃料として注目されているアンモニアの課題について次にご紹介していきます。

アンモニアを燃料にする時の課題とは?

燃料としての魅力が高いアンモニアですが、燃やした時に他の有害物質が発生するという課題があります。また、従来のつくり方のままでは、製造過程でCO2が生じるという課題も残っています。「つくる」「はこぶ」「つかう」それぞれにおける課題を見ていきます。

  1. 「つくる」段階での課題

    ハーバー・ボッシュ法は、高温高圧環境で窒素と水素を反応させる製法です。問題は、水素を製造する時に化石燃料を使うことです。ここでCO2が排出されてしまうのです。

    つくる過程でCO2を排出してしまうものを「グレーアンモニア」、化石燃料から製造するプロセスで排出されるCO2を貯留や有効利用したものを「ブルーアンモニア」、再生可能エネルギーから水素をつくりアンモニアを合成したものを「グリーンアンモニア」と呼んでいます。カーボンニュートラルの実現に向けては、「グレーアンモニア」から「ブルーアンモニア」や「グリーンアンモニア」にシフトしていくことが求められています。そのためグリーンイノベーション基金事業では、低コストで大量につくるための手法の開発を実施しています。
    詳しくは後編でご紹介します。

    カーボンフリーのアンモニア火力発電 引用元:資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ記事「アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電」」掲載図を参考に作成
  2. 「はこぶ」段階での課題

    アンモニア肥料合成繊維等工業用原料として、2019年には年間約108万トン国内消費されていましたが、約8割国内生産対応できていました*1しかしこの先燃料として使うことを考えると、より多く必要なります。将来的な国内需要見込みとして、2030年には年間300万トン、2050年には年間3,000万トン必要なる言われています*2現状の何倍、何十倍もの量が必要になるわけです。この需要拡大を見越して、国内外を含む供給網の確立が進められています。

    供給方法としては、国内でより多く製造することと、海外からの調達の両面が選択肢に入ってきます。しかし、これまで地産地消が中心で、アンモニアはあまり輸出入の対象になっていませんでした。2019年には全世界での生産量約1割しか貿易出回っていません*1つまり、海外から調達期待するならば、海外での生産拡大必要です。そこで、日本他国連携して海外生産拡大し、日本運ぶ仕組みづくり始まりました。たとえば、経済産業省UAE・ADNOC(アブダビ国営石油会社)との協力覚書交わし*3アブダビ製造した「ブルーアンモニア」日本輸送する取り組み促進しています。また、民間企業よる海外での操業リスク低減図るため、JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)水素アンモニア製造・液化等貯蔵等への出資・債務保証行う仕組み確立されました*4

  3. 「つかう」段階での課題

    アンモニアを燃料として燃やす時に問題になるのは、「窒素酸化物(NOx)」の排出です。アンモニア内の窒素と空気中の酸素が反応して生じる化合物で、温室効果ガスの一種も含まれます。光化学スモッグや酸性雨の原因にもなりますので、アンモニアを燃料とする場合は、NOxを抑制することが必須条件となります。

    このついては、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(2014~2018年度)にて、NOx発生抑制した混焼バーナー基礎技術世界先駆け確立しました*5一般的には火炎温度が上がるにつれてNOxが生成されてしまうのですが、燃焼段階を工夫することでNOx抑制を可能にしたのです。

    今後は大型化した時や混焼割合を変えた時の影響を検証しながら、NOx抑制を前提にした燃料アンモニアの活用へと進んでいく予定です。

燃料としてのアンモニアの使い方は?

次世代エネルギーとしてのアンモニアは、化石燃料の代わりとして発電に使うことや、燃料電池や工業炉の燃料として使うことが期待されています。具体的な用途について、いくつかご紹介します。

身近だけど実は知らないアンモニアの利用先引用元:資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ記事「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」」掲載図を参考に作成
  1. 石炭火力発電での活用

    火力発電は、必要発電量増量し、過剰には減量するいった調整しやすいので、安定的な電力供給欠かせない存在です。現在、火力発電発電量うち、32%石炭火力占めています(2019年)*6石油や天然ガスと比べてCO2排出量が多いのですが安価で調達しやすいため、重宝されてきました。

    燃料アンモニアの特質は、燃焼速度が石炭に近いので石炭火力発電と相性がよいことです。そこで今後、アンモニアを石炭火力発電所で活用することが期待されています。

    現在、石炭火力発電から日本全体年間約2億トンCO2排出されていますので、全部置き換えればそのCO2丸々削減できます。20%混焼するだけでも、約4,000万トンCO2減らすことできるです*7

    燃料アンモニアによって、大容量の発電を安定的にできるまでにはもう少し時間がかかります。そこで、最初から全面代替をめざすのではなく、混焼によって少しでも削減していく計画が現在進んでいます。

    燃料アンモニアサプライチェーンの構築引用元:経済産業省第3回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ 資料4「「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p20を参考に作成
    カーボンフリーのアンモニア火力発電引用元:資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ記事「アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電」」掲載図をもとに作成
  2. ガスタービンでの活用

    火力発電所では、ガスタービンによる発電も行われています。LNG(液化天然ガス)等を燃やして高温高圧ガスを発生させ、それでタービンを回して電気をつくる仕組みです。

    この燃料としてアンモニアを使うと、CO2の排出をなくすことができます。ただし、アンモニアはLNGほど燃焼性が高くありません。どのように高温高圧ガスを効率的に発生させるかが、クリアすべき課題として研究されています。

  3. 船舶用エネルギーでの活用

    日本の輸出入のほとんどは船舶を使っています。カーボンニュートラル実現に向けては、船舶を動かすエネルギーの脱炭素化も大きな課題となっています。

    燃料アンモニアは、船舶における次世代燃料の上位候補としても注目されています。主力船舶の1つであるLNG(液化天然ガス)船の設備を転用できる可能性が高いためです。グリーンイノベーション基金事業では、別途「次世代船舶」に関するプロジェクトを立ち上げ、燃料アンモニアの実証を進めています。

  4. 工業炉での活用

    鉄鋼や自動車、化学工業など、多くのメーカーでは材料や部品を熱によって加工する設備を持っています。これを工業炉と呼びますが、ここで日本の約17%のエネルギーが使われています。工業炉で必要な熱エネルギーを、燃やしてもCO2を排出しない燃料に置き換えていくこともカーボンニュートラル実現に欠かせません。

    エネルギー需給に関して講じた施策の状況 引用元:資源エネルギー庁「エネルギー白書2021「第3部 2020(令和2)年度においてエネルギー需給に関して講じた施策の状況 第8章 強靱なエネルギーシステムの構築と水素等の新たな二次エネルギー構造への変革 第4節燃料アンモニアの導入拡大に向けた取組」」掲載図を参考に作成

燃料アンモニアが普及するまでのロードマップ

アンモニア燃料として定着していくには、燃料として実績づくりまずは必要です。用途広がらないいくら供給量増やしても普及進まないからです。そこで、燃料アンモニア普及していくためロードマップ*8では、ようなステップ取り組むされています。

ステップ1

「グレーアンモニア」をある程度使いながら、燃料アンモニアの実用化と普及をめざす

ステップ2

普及拡大が進むなかで、アンモニア製造過程で排出されるCO2について、CCS、CCUS/カーボンリサイクル、植林、ボランタリークレジットによるオフセット等から合理的な形でCO2の処理を行った「ブルーアンモニア」の導入を促進する

ステップ3

再生可能エネルギー由来の「グリーンアンモニア」技術が進展したところで、徐々に使用するアンモニアを「グリーンアンモニア」に置き換えていく

CCS...「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・貯留」のこと。
CCUS...「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、分離・貯留したCO2の利用までを含む。

手軽使える燃料なるためには、コスト大きく影響します。これ段階的削減する見込み進んでいく予定です。アンモニアは、水素価格換算して、1Nm3(ノーマルリューベ)あたり20円前半調達可能との試算あり、これ2030年まで10円後半すること目標されています*9

また国際的には、水素やアンモニアなどの技術、制度、ノウハウを活かし、世界、特にアジアのインフラ整備を各国と共に進める構想も進みます。2022年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、「アジア・ゼロエミッション共同体」を目指していくことを岸田総理が特別演説で言及しました。

具体的には、ゼロエミッション技術の開発や各国のロードマップ策定支援からはじめ、国際共同投資や共同資金調達によりサプライチェーンをつなげていきます。そして、技術やルールを標準化すること、カーボンクレジット市場の大規模化を進めるという展望です。

なお、標準化やルール整備に関しては一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会(CFAA)の内部に複数の専門ワーキンググループが設けられ、調査や検討が進んでいます。燃料アンモニアを安全に社会実装し、また、燃料アンモニアの技術や設備をグローバル市場のスタンダードにしていくためにも、世界をリードする議論が期待されています。

アンモニアは、燃料そのものに使うこともできるし、水素のキャリアとして活用することもできる、すぐれた資源です。CO2の排出を抑制した大規模製造、NOxの排出などいくつかの課題に対する技術的な解決策もある程度目処がついてきました。ここからは、大規模な社会実装をどう進めるか。いよいよ実用化段階に入っていきます。燃料アンモニアの技術開発によって、世界の脱炭素化を加速させ、日本のグリーン産業の成長を促進することの一翼を担うことを目指しています。

燃料アンモニアサプライチェーンの構築 引用元:経済産業省第3回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料4「「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p18を参考に作成
最終更新日 2022/09/27