カーボンリサイクル社会に向けて欠かせない技術CO2分離回収技術の進化で、カーボンニュートラル実現を目指す!

CO2分離回収技術の進化で、カーボンニュートラル実現を目指す!

2050年のカーボンニュートラル実現が求められていますが、現時点で社会を支える部素材や電力量を確保するには一定量の化石燃料が必要です。これを燃やすなどの過程で工場や発電所からどうしても排出されてしまうCO2があり、CO2の排出を完全にゼロにするのは現実的ではありません。CO2の排出を削減するために、排出されたCO2を貯留または利用する技術(CCS/CCU)が注目されています。

CO2を回収し、回収したCO2を貯留または原料として利用するために、共通して必要になるのが、複数の成分からなる排ガス等からCO2を分離して回収する技術です。

CO2の分離回収とはどのような技術なのか。今、その開発がどの程度進んでいるのかについて、ご紹介します。

CO2ネットゼロ実現に不可欠なCO2分離回収技術

CO2は無色無臭の気体で、炭素を含む物質を燃やすと発生します。火力発電所から排出されるガスや、工場の炉から排出されるガスには数%から数十%ものCO2が含まれています。CO2は、ビールや炭酸飲料の発泡剤、アイスクリームや冷凍食材を冷却に使用するためのドライアイス等、身近なものにも使用されています。

IEA(国際エネルギー機関)のシナリオによると、2050年のCO2ネットゼロ(実質的にCO2排出をゼロにする)を実現するためには、再生可能エネルギーや、水素・アンモニア燃料等を使うことで各産業分野のCO2排出は削減されていく見込みですが、それと並行して、どうしても排出されてしまうCO2への対処としてCO2分離回収が求められます。
世界全体2035年40億トン、2050年76億トンCO2分離回収必要なるされます*1

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料3「「CO2の分離回収等技術開発」プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p7 を参考に作成

CO2を取り出す分離回収技術の開発は、古くから進められてきました。近年ではさらに、分離回収したあとにそのCO2を貯留または利用する技術の開発が加速しています。

CO2を回収・貯留することをCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と言い、地下にCO2を埋め、大気に再放出させないことにより、地球温暖化に作用させないようにします。近年、注目されている水素に関して、化石燃料から水素を製造する場合にはCO2が発生します。そのCO2をCCSすることで、カーボンフリーなエネルギー(ブルー水素)とすることができます。また、回収したCO2を回収・活用することをCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)と言い、ドライアイスのように直接利用したり、燃料やコンクリートの原料にしたりするものです。グリーンイノベーション基金事業でも次の4つのプロジェクトに取り組んでいます。「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」「CO2を用いたコンクリート等製造開発技術開発」「CO2等を用いた燃料製造技術開発」「バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進」といったプロジェクトです。

出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「『ムーンショット型研究開発事業/DAC(Direct Air Capture)の技術動向及び社会実装課題に関する調査』成果報告書」を参考に作成

これから開発が求められるCO2分離回収技術

排ガス等からCO2を取り出す分離回収技術と言っても、一様ではありません。CO2を含むガスは、排出源によって様々な圧力・濃度が存在し、対応するCO2分離回収技術の難しさが異なります。

CO2が高圧・高濃度で含まれているガスに対しては実用化が進んでおり、たとえば高圧・高濃度のCO2を含む液化天然ガスの精製プラントでは、すでにCO2の分離回収の商用化が世界的に進んでいます。CO2が高圧・高濃度で含まれているガスからは、比較的CO2を取り出しやすく、すでに一定の圧力がかかっているので、分離のために必要なエネルギーが低圧よりも少なくて済みます。

次いで商用化が進みつつあるのが、石炭火力排ガスです。石炭火力排ガスには、低圧状態ではあるものの、CO2濃度12~14%程度と一定濃度のCO2が含まれています。2017年には日本企業の技術を用い、北米の石炭火力発電所で排出される石炭火力ガスからCO2分離回収を行う世界最大規模のプラントの商用運転が開始されました。

一方、CO2濃度10%以下かつ低圧状態の排ガスからCO2を取り出す方法については、実用化に向けた技術開発が求められています。今後利用増加が見込まれる天然ガス火力発電や、各種工場からの排ガスの多くがこの領域にあたります。高圧・高濃度に比べて分離回収効率が悪い点を、どれだけ効率化できるかが実用化へのカギとなります。また、天然ガス火力発電と工場排ガスでも特性が異なりますので、それぞれの排ガスの特性にあった技術の見極めも重要です。

1. 天然ガス火力発電から発生するガスの特性
CO2を分離するためには、特別な分離材を使いますが、CO2が低濃度であるほど分離効率が悪く、適用する技術レベルも高くなります。商用化を見据えると、できるだけ低コスト・高効率で分離回収できる方法が求められます。また、大規模な設備で分離回収処理していくことになりますので、大規模化に対応する技術も必要です。

2. 工場から発生するガスの特性
工場から発生するガスといっても、化学プラント、熱電供給システム、ボイラ、廃棄物焼却炉等、原料や設備ごとに特性が違います。工場排ガスを一律に考えるのではなく、発生源や規模、条件ごとに最適なCO2分離回収技術を定めていく必要があります。

なお、大気中のCO2を分離回収するDAC(Direct Air Capture)という技術領域もあります。分離回収の原理は同じですが、非常に低濃度のなかからCO2を取り出すことは難易度が高いため、別途研究を進めているところです。

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料3「「CO2の分離回収等技術開発」プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p25 を参考に作成
引用元:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「2020年度NEDO環境部成果報告会」「CO2分離・回収技術の概要」資料を参考に作成

具体的なCO2分離回収技術とは

CO2分離回収技術には、複数の方式があります。現時点で使用されているCO2分離回収技術の手法を、いくつか見てみましょう。

1.化学吸収法(アミン吸収法)

化学吸収法は、化学反応を利用して、CO2を分離する方法です。CO2と結合しやすいアミンという化合物を水に溶かし、水溶液にして使用することが多く、アミン吸収法とも言います。1980年代から実績のある手法で、工場等でも実際に使われています。ただし、アミン水溶液からCO2を回収する場合には、アミン水溶液を加熱する必要があります。加熱に伴い、エネルギーが大量に必要です。その結果、コストが増えるという課題があります。加えて、アミンには、腐食性があることから、アミンを使うことでCO2分離回収プラントの吸収塔や再生塔等の配管が腐食しやすくなるという難点があります。

引用元:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「2020年度NEDO環境部成果報告会」「CO2分離・回収技術の概要」資料を参考に作成

2.物理吸着法

物理吸着法は、CO2を圧力差と温度差を活用し、分離する方法です。専用の吸着材(活性炭やゼオライト)にガスを通し、CO2を吸着させます。圧力の掛けられた環境で吸着されたCO2を含む吸着材の圧力を下げ、吸着材からCO2を脱離させて回収します(もしくは、常温環境で吸着されたCO2を含む吸着材を加温することでCO2を回収します)。この原理の身近な例として、脱臭剤や除湿剤として利用されている活性炭やシリカゲルがあります。圧力エネルギーを使用して、CO2を回収することができることから、加圧されたガスにCO2が含まれる場合は、化学吸収法に比べて分離回収に必要なエネルギーを低くすることができます。他方、吸着⇔脱着のサイクルに時間がかかることから、このサイクルを早めることができる吸着材の開発が求められています。

出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構内で作成

3.膜分離法

膜分離法は、ガスの圧力差を用いて、CO2のみを回収する技術です。CO2を通す専用の膜を用いることで、各種分離技術のなかで、最小のエネルギーで、CO2を分離できる可能性を有します。簡単な設備で分離回収ができるのですが、膜の上流側を加圧するか、下流側を負圧(真空状態)環境にする必要があり、必要なエネルギーは、回収したいCO2の環境に依存します。分離膜の上流・下流の圧力状態やCO2濃度など、運転環境に適合させ、効率的に分離できる膜の開発が求められています。

出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構内で作成

CO2分離回収技術の強化を通じた産業競争力強化

天然ガス火力発電は、化石燃料の中でも環境負荷が少ない分、世界各国で当面利活用が継続する見込みです。また、工場からの排ガス対応についても世界各国が技術開発を進めている最中です。日本がいち早く低圧・低濃度のガスから低コスト・低エネルギーでCO2分離回収できるようになれば、日本のみならず世界にその需要は広がります。

引用元:経済産業省第8回産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換分野ワーキンググループ資料3「「CO2の分離回収等技術開発」プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p14 を参考に作成

日本では以前からCO2の分離回収技術の開発が盛んで、他国と比較しても多くの特許を保有しています。そうした研究の積み重ねのなかで、低圧・低濃度におけるCO2分離回収についても、ある程度道筋は見えてきました。

たとえば、天然ガス火力発電での排ガスに対しては、アミン吸収法の機能を応用した固体吸収法を導入し、CO2回収に使用するエネルギーを減らすことで、コストが下げられないかという研究が進められています。また、工場の排ガスについては、低エネルギーでコンパクトな設計が可能な物理吸着法や膜分離法で対応していく可能性を探っています。これら取り組みについて、グリーンイノベーション基金事業を通じて、実用化に向けて開発を加速しているところです。

資源循環型の社会に向けて

近年、資源循環型の社会を目指す際の言葉として、サーキュラーエコノミー(限りある資源をできるだけ循環させる経済システム)やカーボンリサイクルというワードを耳にすることが多くなりました。CO2を炭素資源としてリサイクルする、まさにCO2の分離回収を低コストで行う技術が、カーボンリサイクルを実現する上での鍵となります。世界に先駆けた社会実装を目指し、資源が循環する社会づくりを進めていきます。

最終更新日 2023/08/22