カーボンニュートラル実現に向けたモビリティの電動化を支える蓄電池・モーターの進化とは

モビリティの電動化を支える蓄電池・モーターの進化とは

温暖化対策向け、世界的自動車電動化動き加速しています。日本でも2035年には乗用車新車販売電動車*1100%すること目指しいます。電動車普及進むためには、既存同水準性能コスト求められます。ここでは、電動車性能コスト大きく関わる蓄電池モーターついて、ご紹介していきます。

カーボンニュートラルに向けて変化が求められる自動車産業

自動車は長く内燃機関車を中心に発展してきました。内燃機関車は、化石燃料であるガソリンを燃焼してエネルギーにしているので、自動車を走行させるとCO2が排出されてしまいます。グローバル、国内ともにCO2総排出量の約16%を占める量が自動車から排出されており、2050年カーボンニュートラルに向けて、抜本的な転換が求められています。

引用元:経済産業省第3回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料2「『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p2を参考に作成

その1つとして挙げられているのが、電動化です。電気で自動車が動けば、走行時にCO2は排出されません。ただし、発電時のCO2排出についても考える必要がありますし、動かすための電気エネルギーをできるだけ抑える工夫も必要です。

さらに、これからの自動車開発を進めるうえでは、100年に一度と言われている自動車産業の構造変化も押さえておく必要があります。自動運転やインターネットとつながるコネクテッドサービスが加速していくでしょう。政府は「世界中の誰もが便利で快適に、カーボンフリーのモビリティサービスを享受できる社会」を2050年の将来像として掲げ、その実現に向けて技術支援、社会インフラの整備、法制度の整備等を同時に進めています。

電動化と自動運転を組み合わせた電動・自動走行車を動かす鍵となるのが、駆動させる仕組みであるパワートレインと、自動走行を司る車載コンピューティングです。車は、エネルギーをモーターに伝達し、モーターによる運動エネルギーによって走行するのですが、この機能部分をパワートレインと言います。電動車のエネルギーを蓄えている電池も、パワートレインに含まれます。車載コンピューティングについては別の記事で紹介しており、ここではパワートレインの仕組みについて、もう少し見ていきます。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料3「『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p11を参考に作成

電動車の性能を左右する高性能蓄電池

電動車は、蓄電池に充電した電気でモーターを動かします。蓄電池の性能は、充電できる量や耐久性、コスト等に影響します。電費(電気1kWhあたりの走行距離)という言葉がありますが、同じエネルギーでもより長距離を走れる車ほど、高性能な電動車ということになります。

一度の充電で走れる距離のことを航続距離と言いますが、蓄電池の容量(kWh)が大きいほど航続距離は長くなります。ただし、容量に応じて電池の容積・重量が上がると電費が悪くなりますので、同じ容積・重量でもより多く電気を貯蔵できる(密度が高い)ほど性能がよいわけです。

基本的に電池は、化学反応によって電子が発生し、正極と負極の間で移動させて電流を起こします。現在普及している電動車では、液系リチウムイオン電池と言われるタイプが主に使われています。正極と負極の間をリチウムイオンが移動して充放電を行う仕組みであり、リチウムイオンの移動を媒介するのが、電解液と言われる液体です。この電解液は、電池の充放電特性(充電の速さ等)や安定に作動できる効果(副作用を防ぐ安定性)があるため、広く使われてきました。

一方、同じ体積でもより高密度に貯蔵できるようにするには、材料そのものを見直したり、材料の組み合わせを変えたりする技術開発が必要です。液系リチウムイオン電池の改善も大いに進められていますが、同時に他の仕組みの電池について、世界各国の企業や研究機関によって、複数のアプローチによる研究が進められています。

同じリチウムイオン電池の原理をもとに、電解液ではなく固体の電気を通す物質(電解質)を使うのが、全固体リチウムイオン電池というものです。次世代蓄電池の有望な技術の1つとして注目されており、他国でも開発を加速しています。

液系リチウムイオン電池比べ、全固体リチウムイオン電池にはような特徴*2あります。

  1. 可燃性の電解液による発火や、液漏れがなくなり、安全性が向上
  2. 同じ体積の液系リチウムイオン電池と全固体電池で比べると、航続距離が約2倍
  3. 大電流での急速充電が可能となり充電時間が短縮(液系リチウムイオン電池の1/3程度)
  4. 劣化特性ついては技術課題あり
  5. 量産化技術の確立も課題

こうした課題を早期に克服し、長所を活かした研究開発が現在進んでいるところです。

引用元:経済産業省第14回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料4「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」p16を参考に作成

高効率化へ革新が求められるモーターシステム

蓄電池の電気エネルギーを、インバーターと呼ばれる電源回路を介し、モーターと減速機(ギア)を駆動して運動エネルギーに変えるのが、モーターシステムです。モーターとギアの回転が運動エネルギーを作りだします。

航続距離や電費には、このモーターシステムの性能も関わってきます。電気エネルギーから運動エネルギーに変換される量が同等であれば、充電した量だけ航続距離が保てます。しかし、回路を切り替えたり、ギアを回転させたりする過程で、エネルギーの損失が起こります。また、モーターシステムの動作時に発生する熱を冷却する必要もあり、そこでもエネルギーの損失が生じます。

電動車を普及するうえでは、こうした課題が解決される必要があります。つまり、モーター自体のエネルギー出力が高いこと、効率的な熱マネジメントができること、より小型で軽量なことが求められます。一般的に、モーターの出力を上げようとすると、装置は大型化していきます。しかし、装置が大型で重くなれば車両の電費が悪くなりますし、装置を作るための材料がたくさん必要になるのでコストも高くなってしまいます。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料3「『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p43を参考に作成

従来のモーターシステムの多くはモーター、ギア、インバーター、冷却機構がそれぞれ独立して構成されていますが、これらを一体化させて1つのパッケージにしたものを、「e-Axle(イーアクスル)」と言います。モーターやギアが独立したシステムの場合、それぞれを導電部材でつないでいますが、一体化するとそうした導電部材は不要になります。e-Axle化すると、モーターシステムをより小型・軽量化できるので、開発の一つの方向性として考えられます。

調達リスクが少ない原材料使用を目指す

もう1つ考えておくべき観点が、原材料の安定的な確保です。

蓄電池やモーターでは、リチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛等といった鉱物資源を使っています。これらのほとんどは国内産出量が少なく、海外からの輸入に依存している状況です。電動車が拡大するにつれて使用量も増えていくため、調達リスクが少ない原料でないといけません。また、資源不足のみならず、国際情勢による価格上昇や調達停止というリスクも考えられます。そこで我が国としては、革新的技術や代替材料開発によって、特定国依存度の高い材料を著しく低減することを目指しています。

引用元:経済産業省第14回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料4「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」p10を参考に作成

原料調達に関して同時に検討しているのは、鉱物資源のリサイクル利用です。

現在広く使われているリチウムイオン電池ですが、この廃棄物にはリチウム、ニッケル、コバルトが含まれています。ニッケルとコバルトはすでにリサイクルによる回収ができる技術が実用化されています。しかし、リチウムの回収は実用化されるほど十分確立できておらず、ニッケルやコバルトも、電動車で使える品質まで向上するには課題が残ります。今後の蓄電池利用の伸びに合わせて高精度なリサイクルの技術を確立し、リチウムやニッケル、コバルトを市場価格の同等以下のコストで再利用していくことが求められています。

引用元:経済産業省第6回 蓄電池産業戦略検討官民協議会 資料3「蓄電池産業戦略」p7を参考に作成

大幅な市場拡大が見込まれる蓄電池・モーター

蓄電池の用途として、車載用以外にも家庭や産業用で使われる定置用タイプもあり、ゆくゆくは車載用と定置用のエネルギー連携(車の電力を家庭でも使えるようにする等)も行われる見込みです。2019年に約5兆円だった蓄電池の世界市場規模は、2030年に約40兆円、2050年に約100兆円に広がると言われています。そうした今後の展開も見据え、グリーンイノべーション基金事業では、高性能蓄電池・材料の開発ならびに蓄電池のリサイクル関連技術開発について、取り組んでいるところです。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料3「『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p17を参考に作成

なお、高性能蓄電池を量産していくためには、製造時のCO2削減に向けた生産技術の革新も求められます。材料工程、電池セルを作る生産技術の革新をはじめ、全体として製造時CO2排出量を削減することへの対応も工夫していきます。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料3「『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p38を参考に作成

モーターシステムについては、小型で軽量かつ高性能な仕組みができれば、広くモビリティ全般に応用できることが期待されています。今回は、こうしたモビリティ向けモーターシステムの高度化に向けても取り組んでいます。

今回取り組んでいる高度なモーターシステムの開発は、従来の技術ではスペース上の制約から電動化が困難な面がある軽自動車や商用車への応用に加え、空飛ぶクルマ等の新規モビリティを実用化していくうえでも転用の可能性が検討されております。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料3「『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p54参考に作成

大きなモビリティ産業の変革期にあたり、各国とも国を挙げた技術開発の動きが見られます。グローバル競争に勝ち抜き、いち早く実用化していくことが、日本の産業競争力の観点からも重要です。グリーンイノベーション基金事業を通じて電動車普及へのカギとなる蓄電池・モーターへの技術開発を進めると共に、リサイクルの基準、材料の倫理的調達指針等、国内・国際的なルール形成にも力を入れながら、世界に通用する技術の実用化を目指していきます。

最終更新日 2024/02/01