グリーンイノベーション基金事業でスマートモビリティ社会の基盤をつくる商用車の最適な運行管理・エネルギーマネジメントに向けて

商用車の最適な運行管理・エネルギーマネジメントに向けて

商用車の電動化が大規模に普及したときのエネルギーマネジメントについて、記事「スマートモビリティ社会の構築に向けて~商用車の運行管理とエネルギーマネジメントを進めるには」でご紹介してきました。ガソリン車から排出されていたCO2は、電動化への移行によって大幅に削減できることになるわけですが、使う電気や水素の補給量が拡大していくなかで、全体最適を考える仕組みがないと、電動車の商用利用が滞ってしまいます。

このプロジェクトでは、先の社会を見越して全体のエネルギー需給バランスを調整する仕組みを整えることを目指しています。このような仕組み(又はシステム)により、電動車普及が進み、CO2削減が可能となります。バス、タクシー、トラックとそれぞれ特性が異なることも踏まえて、どのような取り組みが進んでいるのか、プロジェクトを担当する方々にお話を伺いました。

スマートモビリティ社会に向けて求められる仕組みづくり

――カーボンニュートラルの実現に向けて進展するモビリティ社会に対して、国としてどのような取り組みを進めているのでしょうか

伊藤 建氏(以下、伊藤氏):今、自動車産業は、カーボンニュートラルへの対応とコネクテッド技術、自動走行技術の発展等が同時に進み、大きな変革期を迎えています。新たなモビリティ社会が機能するためには、増加する通信量を加味した社会づくりが欠かせません。たとえば、自動運転車が増えると、処理する情報量が格段に増していくことになります。情報量が増えると、それを支えるネットワークやクラウドの処理量が多くなり、より多くのエネルギーが必要となります。
情報量の領域に対しては車載コンピューティングに関するプロジェクトを立ち上げ、進めているところです。一方、本プロジェクトでは、エネルギーマネジメントの最適化について取り組んでいきます。普及が進んでいく電気自動車・燃料電池自動車は、電気や水素をエネルギーに使います。充電スタンドや水素ステーションの整備も進んでいくわけですが、設備設置にもコストがかかりますので、ただ数を増やせばよいわけではありません。最適な運行管理と連動してエネルギー補給できるような仕組みが求められます。
今回焦点をあてているのはバスやタクシー、トラックなどの商用車です。稼働している時間が長い分、多くのエネルギーを使う特性があります。また、大型になるほど一度に補給する量が増えます。たとえば配送トラックが皆、昼の休憩時間に充電をしようとすると、エネルギー需要が集中し、供給を上回ってしまいます。策を講じないとその時間帯は電力不足に陥りかねません。充電スタンドが混むとドライバーの待ち時間が増え、営業効率が下がります。そこで、運行管理を最適化することで、こうした課題を解消していきたいと考えています。

――今回のプロジェクトの概要を教えてください

伊藤氏:商用車の電動化においては、車両コストやエネルギーコストの上昇等、運用側にデメリットが発生しがちです。そこで、社会全体でエネルギーマネジメントを行うことで、電動車導入の共通課題を極力解消したいと考えています。 具体的には、「個別事業者の取り組み」と「社会全体のための取り組み」を同時に進めていきます。商用車といっても利用目的や地域性などによって運行状況はかなり幅があります。個別事業者での取り組みは、様々なバリエーションの運行ごとにデータを収集し、運行管理の最適化に向けた取り組みを進めています。並行して、社会全体のための取り組みとして、各事業者からの車両データや走行データ、地図・気象データ、交通情報データ等を組み合わせて社会全体のシミュレーションを行っていきます。 目指すのは、社会全体でのエネルギー利用最適化と、CO2排出量の低減です。他社とのデータ連携や、社会的インフラとのデータ連携というのはなかなか個々の事業者では進められません。そこで、国のプロジェクトとして個々の事業者の連携をはかり、仕組みや標準化も含めて取り組んでいるところです。

引用元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティ社会の構築」に係る実施体制の決定について 別紙3p1を参考に作成

個別事業者の取り組みをもとに業態別の最適化を実証

――個別事業者はどのようなテーマに取り組んでいるのですか

内海 敦子氏(以下、内海氏):バス、タクシー、トラックという商用車のタイプによる違いと、充電式の電気自動車なのか、水素による燃料電池自動車なのかといったエネルギーの違い、そして都市部なのか山間部なのか、あるいは寒冷地の場合もあるのかといった地域性等により、どのようなエネルギーマネジメントがよいかという点では違いが生まれてきます。そこで、今回の個別事業者のテーマについては、バス事業で2つ、タクシー事業で2つ、トラック等を用いた物流事業で3つと、計7つのテーマを同時に進めることにしました。いずれも運輸事業者が主体として電動商用車の実証実験を行い、最適化に向けたシステム開発を進めていきます。交換式バッテリーや無線給電技術など、既存ではまだ普及していない技術活用についても一部で実証を予定しています。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ資料5「『電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発』『スマートモビリティ社会の構築』プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性」p71を参考に作成

――バス事業では何に取り組むのでしょうか

内海氏:ルートや到着時刻の決まった路線バスにおいては、安定運行と効率的な充電を実現するためのマネジメントシステムが求められます。ただし、気象条件も影響します。一般的に電動車は寒冷地ほどバッテリーの性能が落ち、航続距離が短くなると言われています。 そこで今回、バス事業実証の1つ目としては、寒冷地エリアも含めた地方都市でEV(電動自動車)バスの運行管理・需給調整が一体化したエネルギーマネジメントシステムの開発に取り組んでいます。福島・栃木・茨城地域の関係事業者が参加し、運行最適化モデルを作成したり、充電タイミングの自動制御、エネルギー設備の最適配置などを進めたりしています。 もう1つ取り組むのは、大阪・関西万博会場バスならびに大阪市内路線バスを対象とした実証です。ここでは、エネルギーマネジメントシステム、運行管理システム、そして走行中のワイヤレス給電を組み合わせた統合パッケージ化を目指しています。自動運転でのEVバス導入も見越し、固定路線・エリアを走行するケースでの適応を想定しています。

――タクシー事業はいかがですか

内海氏:流しのタクシーは、顧客が乗車するまで移動距離が不透明で、実際の移動距離もばらつきが大きく、充電池の使用状況が個々によって異なるという特徴があります。その特徴を踏まえ、充電状況に応じた配車の効率化や充電タイミングの最適化を行うためのシステムの実証に取り組んでいるところです。 1つ目の取り組みでは、広島・和歌山エリアにおいて、配車システムと連携した給電管理システムを構築し、蓄電池を搭載したEVタクシーの運行を開始しています。給電予約がシステムに集約され、タクシーの配車システムとも連動することで、給電を軸とした車両コントロールが可能となる見込みです。 もう1つは、首都圏、京阪神圏、名古屋圏をはじめとしたエリアでEVタクシーを運用し、運行・車両・エネルギー利用の各種データを収集していく取り組みです。第一段階として2025年までに各種データを収集し、充電計画の作成、充電インフラ整備を進めます。あわせて運行管理とエネルギーマネジメントができるようなシステム構築を進め、2026年以降に大規模実証をしながら精度を高めていく予定です。

――物流での3つの取り組みは、どういった内容でしょうか

内海氏:まず2つの事業において、集配車両のEV化と、運行管理ならびに一体的なエネルギーマネジメントの構築を進めています。1つ目は日本の北から南まで多様な条件の地域で試行し、最適な運行管理を目指します。具体的には充電管理システムに各自動車情報や建物での電力使用情報等を集約し、「AI×ビッグデータ」を活用して将来にわたる最適化を進めると共に、運行管理と一体的な充電時刻・充電量のマネジメントを目指しています。 もう一方の事業では、県単位のエリアでエネルギーマネジメントシステムを構築し、最適な充電器レイアウトや充電ピークのコントロール等を進める取り組みです。余剰電力を拠点間で融通できるような仕組みも整え、地域内での集配車の100%EV化を目指しています。 さらに物流における3つ目の取り組みとして、幹線輸送のトラックを電気自動車・燃料電池自動車にしたうえで、最適なエネルギーマネジメントに向けたシステム構築を取り組もうとしています。電力や水素消費量や配送経路計画を研究しながら、最適な充電・充てんタイミングを見極め、充電スタンドや水素ステーションの最適配置にも役立てていく予定です。

社会全体の最適化に向けてシミュレータを構築

――社会全体の最適化を目指して、どのような取り組みを進めているのでしょうか

内海氏:個別事業者の運行データやエネルギー利用情報に加え、気象情報や地図情報等のビッグデータを集約し、そのデータを元に機械学習を行い、社会基盤シミュレータを構築していこうとしています。シミュレーション上では個別事業者単独では難しい、より広範囲の充電・充てんインフラの最適配置検討に加え、CO2排出量削減方法の提案や、エネルギー利用・運行管理最適化の提案等もできますので、これを社会全体のためのエネルギーマネジメントのプラットフォームとし、様々な事業者等でも活用してもらうことを想定しています。

引用元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティ社会の構築」に係る実施体制の決定について 別紙3p2を参考に作成

――どのようなスケジュールで進んでいくのでしょうか

内海氏:まずは2022年から2024年の3年間で、シミュレーションモデルの構築やデータ連携システムの設計、エネルギーマネジメント用の地図データベース開発等を行います。そこで一度、シミュレーションモデルの精度や有効性検証を行い、次の3年間でシミュレーション対象やデータベースの大規模化・整備を進めます。このシミュレーションモデルを個別事業者でも活用して検証し、他のプラットフォーム連携もできるようにしながら社会実装を進めていく予定です。

期待される効果とこれからの展望

――商用車の電動化を促進させていくことで、どのような効果が見込まれるでしょうか

伊藤氏:商用車が電動化に移行するということは、従来の化石燃料をつかった内燃機関車で発生していた分のCO2が減らせるということです。このCO2削減効果については、IEA(国際エネルギー機関)が示した商用車の電動化普及シナリオ等を活用し、試算しました。すると、2040年に約0.9億トン、2050年に約2.6億トンのCO2削減に貢献すると算出されます。現在、日本の商用車分野で約7000万トンのCO2が排出されていますが、その全量以上の削減をグローバルで実現していきたいと思っています。同時にその分だけ車両販売ができているとしたら、2040年に約2.4兆円、2050年に約7.1兆円の経済波及効果が期待できる見込みです。なおこれは、車両価格を現在並みとして、グローバルにおける日本の商用車シェア分をもとにした試算です。

――商用車に関するこれからの展望はいかがでしょうか

伊藤氏:商用車分野での運行効率・エネルギーマネジメントの最適化は、電動車が増え、諸条件が増すほど複雑になっていきます。普及の初期段階である今から全体最適のエネルギーマネジメントを想定し、対応を進めていくことは将来の電動化政策を最適コストで進めるためにも重要です。商用車に関するデータは、交通渋滞の予測や災害時支援、あるいはスマートシティ構築に役立つものです。こうした他の目的に使うことができれば、付加価値もあがります。 2050年には、カーボンフリーのモビリティサービスが、便利で快適に利用できるようになっていることが、目標として掲げられています。本プロジェクトの社会実装を全力で進め、その目標達成に貢献していきたいと思っています。

最終更新日 2023/12/15