廃棄物を資源として循環させるために新たな廃棄物処理システムの構築へ

新たな廃棄物処理システムの構築へ

資源の無駄遣いを防ぎ、廃棄物を減らそうという取り組みは、社会全体で進められてきました。リデュース・リユース・リサイクルを総称する3Rは、社会で広く認知されています。それでも、一定量の廃棄物は発生します。廃棄物を単純に廃棄するのではなく、資源として循環させる取り組みが、今、始まっています。廃棄物を資源にしていくとはどういうことなのか。廃棄物処理においてカーボンニュートラルをどのように実現していくのかを、ここではご紹介します。

廃棄物処理における温室効果ガス排出の課題

日本では2001年に「循環型社会形成推進基本法」が全面施行され、環境への負荷をできる限り低減する社会を目指すことが方向づけられました。この法律では廃棄物等のうち有用なものを「循環資源」と位置づけ、その循環的な利用を促しています。また、廃棄物処理の優先順位を初めて法定化しました。①発生抑制(Reduce)、②再使用(Reuse)、③再生利用(Recycle)、④熱回収(リサイクルできずかつ燃やさざるを得ない廃棄物を焼却する際に、発電や余熱利用を行うこと)、⑤適正処分という順です。こうした方針にもとづき、「資源有効利用促進法」「容器包装リサイクル法」「家電リサイクル法」といった法律が制定されています。使用済のものを可能な限り再利用・再生利用しようという意識は、社会に定着してきています。

前述した②再使用、③再生利用ができない廃棄物は、何らかの形で処分する必要があります。つまり⑤の適正処分ですが、その多くは全国各地に立てられた廃棄物処理施設で焼却処分されています。焼却時に発生する熱の一部は温水や発電等に再利用されていますが(④熱回収)、排ガス中のCO2は大気に放出されています。日本の廃棄物分野で発生する温室効果ガスのうち、廃棄物の焼却に伴うものが約8割を占めているのが実状です。

生ごみ等の有機性廃棄物(動植物由来の廃棄物)は、埋立処理もなされています。しかしこの方法は、地中の微生物が有機物を分解するため、メタン(CH4)を発生させてしまいます。メタンはCO2の25倍もの温室効果がありますので、この抑制についても考える必要があります。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進等分野ワーキンググループ 資料3「『廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p3を参考に作成

廃棄物を資源として活用する方向へ

2050年カーボンニュートラル達成に向けて、廃棄物処理(④熱回収ならびに⑤適正処理)で発生しているCO2やメタンを効率的・安定的に再利用するための抜本的改善として、廃棄物の処分に際してエネルギー回収や熱回収のみにとどめるのではなく、資源として利活用することに取り組み始めました。廃棄物に含まれている炭素を、CO2として排出するのではなく原料や燃料に変えていくという考え方です。

⑤適正処分として扱われていた廃棄物(④熱回収している廃棄物も含む)を資源に変えていくためには、次のような方法があります。

1.焼却で発生するCO2を分離回収して、炭素資源として循環させる方法
CO2の分離回収技術を活用し、CO2を大気中に放出せず、炭素資源として活用するという発想です。回収したCO2は、プラスチック等の原料や合成燃料に使うことができます。
2.廃棄物を熱分解処理して、原料・燃料として循環させる方法
廃棄物を熱分解すると、合成ガスや熱分解油ができます。これを原料や燃料として活用するという発想です。合成ガスは基礎化学品の原料として、熱分解油は燃料として使うことができます。
3.廃棄物をメタン発酵して、原料・燃料として循環させる方法
有機廃棄物の発酵処理等によって、バイオガスやバイオメタンを作ることができます。これらは発電や都市ガスの代替燃料等に使うことができます。
引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進等分野ワーキンググループ 資料3「『廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p7,9を参考に作成

ただし廃棄物は、地域、季節、天候によって性状(成分、熱量、含水率等)が大きく異なります。資源循環を進めるうえでは、こうした条件にあわせて処理方法を使い分ける必要が出てきます。そこでグリーンイノベーション基金事業では、複数の資源化アプローチを同時並行で取り組むこととしています。

カーボンニュートラル炭素循環プラントの実現に向けて

廃棄物処理システムを、燃料・原料を生み出すシステムに変えていくために必要なのが、廃棄物処理プラント(廃棄物処理をする大型産業設備)の抜本的転換です。適正処理するためだけのプラントではなく、適正処理を前提として炭素を燃料・原料として循環させていくプラントに変えていく必要があります。

具体的には、前述した3つの方法それぞれに対して、技術開発が求められます。それぞれどのような技術が関わるかを以下に示します。

1.焼却で発生するCO2を分離回収して、炭素資源として循環させる方法
この方法では、CO2の分離回収に資する廃棄物の燃焼技術や排ガス処理技術が求められます。その際、分離回収設備導入によって増加するコストやエネルギー消費が増えすぎないようにすることも重要です。グリーンイノベーション基金事業で別途進んでいるCO2分離回収や利活用プロジェクトとの連携も検討しながら、廃棄物の燃焼時に出る多種多様な排ガス中のCO2を効率よく回収できるようなプラント構築を進めていこうとしています。
引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 リーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進等分野ワーキンググループ 資料3「『廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p28を参考に作成
2.廃棄物を熱分解処理して、原料・燃料として循環させる方法
この方法では、廃棄物を直接合成ガスと熱分解油に変えるという熱分解技術が求められます。もともと日本企業は廃棄物の熱分解技術をリードしてきました。廃棄物を燃焼してから合成するよりも、直接分解してガスや油にできるので、有効利用率が高くなります。今後必要なのは、適正コストで安定的に生成できるように技術を進化させるとともに、原燃料化した後の残存CO2を活用できるようにすることです。
引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進等分野ワーキンググループ 資料3「『廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p37を参考に作成
3.廃棄物をメタン発酵して、原料・燃料として循環させる際に必要な方法
この方法では、廃棄物を有機性廃棄物等の微生物の力で発酵させる「メタン発酵」により、直接燃料として使えるガスに変えていく技術が求められます。メタン発酵とは、酸素がない状態(嫌気条件)で複数の嫌気性細菌の代謝作用により有機性廃棄物/排水等に含まれる有機物を「メタンと炭酸ガス(CO2)」に変換する反応の総称です。このメタン発酵によって発生する「バイオガス」にはメタンが50~60%含まれるため、近年、廃棄物処理場において「有機性廃棄物をメタン発酵し、生成したバイオガスを燃焼させて熱として利用したり、バイオマス発電を行う」といった例が増えてきています。このようにエネルギーとして活用が進んできていますが、このバイオガスにはまだ40~50%のCO2が含まれているため、このCO2をさらに「バイオメタネーション」と呼ばれる工程によってメタンに変換し「バイオガス中のメタン濃度を上げる」とともに「CO2の発生を抑える」という点が今回の中心的な取り組みとなります。バイオガスのメタン濃度を極めて高くすることで(目標メタン濃度97%)、バイオマス発電時のエネルギー利用率の向上と同時にバイオガスをそのまま都市ガスとして利用することが可能となり、既存の都市ガスインフラに直接注入できるというメリットが出てきます。
引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進等分野ワーキンググループ 資料3「『廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p47を参考に作成

これらの新たなプラントを総称して、カーボンニュートラル型炭素循環プラントと呼んでいます。いずれかの技術を単体で活用することもあれば、組み合わせることも考えられます。今後、廃棄物処理施設をこうした新プラントに置き換えて、廃棄物を資源として循環させる仕組みを構築していく予定です。ただし廃棄物処理施設は、通常20~30年稼働することを念頭に、場合によっては、カーボンニュートラル型対応の設備を後付けし、既存の処理施設を活用することも想定しています。

廃棄物の一定量を占めていたのが化石燃料由来のプラスチック素材ですが、資源循環の必要性が強まるなかで、有機性(動植物由来)の廃棄物の割合が増えていく見込みでありメタン発酵等の処理を必要とする割合が増えていきます。そうした観点も含めて、社会全体の廃棄物処理システムの抜本的変革が必要になってきています。

廃棄物処理に関する世界動向とこれから

世界状況見ると、廃棄物処理ついてごと処理方式大きく異なります。低所得・中所得中心に、オープンダンプいわれる処理場以外投棄大きな割合占めており、埋立処理合わせ70%近くのぼります。しかし、オープンダンプ埋立処理大量メタン発生してしまいます。メタン排出量削減目指す国際的イニシアティブ動いており*1、中長期的には廃棄物処理プラント現在持っていない地域でも廃棄物処理プラント需要出てくること見込まれます。

引用元:経済産業省第5回 産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進等分野ワーキンググループ 資料3「『廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現』プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性」p21を参考に作成

焼却技術について日系メーカーが世界的なシェアをリードしてきました。廃棄物処理技術や、処理施設の設置・運営ノウハウについて、先駆的な役割を果たしてきています。一方、カーボンニュートラル型の廃棄物処理施設に向けて、欧州での技術投資が加速しています。世界に先駆けて早期の技術開発を進めることが、世界市場におけるシェアの維持・拡大・開拓に大きく影響します。

カーボンニュートラル型炭素循環プラントの実現は、私たちの暮らしを支える社会基盤として不可欠です。全方位的な技術開発を進めることで、焼却施設のみならず、熱処理志向や生物処理志向等の各国の多様なニーズに対応できるようになります。今後は我が国が既に得ている市場の維持・拡大と新市場の開拓を並行して進め、国際的なカーボンニュートラル化に貢献しつつ経済効果の獲得にもつなげていきたいと考えています。

最終更新日 2024/03/01