近年の地球温暖化は、豪雨や洪水、猛暑などの異常気象、農作物の不作や価格高騰など、私たちの暮らしに大きな影響を及ぼしています。
こうした状況を食い止めるため、地球温暖化の要因となっている二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を実質ゼロにする、「カーボンニュートラル」に向けた取り組みが世界中で始まっています。
日本政府も2050年までのカーボンニュートラル実現を目指して取り組んでおり、企業の挑戦を全力で後押しすべく、2兆円※の「グリーンイノベーション基金(以下、GI基金)」がNEDOに創設されています。
※基金積み増しにより、現在は2兆7564億円。
カーボンニュートラル、そしてGI基金とは。
実際にどのようなことが進められているのか、私たちの暮らしはどう変わるのか。
GI基金の取り組みを広く世の中の方に知ってもらうため、次世代を担う大学生たちとともに、GI基金事業に参画する様々な企業の中から、今回、私たちの暮らしに欠かせないタイヤ・ゴム製品の製造・販売を手掛ける株式会社ブリヂストンを訪問しました。
ブリヂストンの企業紹介やGI基金事業での取り組みについて説明を受けた後、同社内にある博物館「Bridgestone Innovation Gallery」を見学しました。また最後には、開発現場の皆さんも加わり、普段はなかなか聞けない開発の苦労やポイント、カーボンニュートラルに向けた熱い想いをお伺いしました。
タイヤ・ゴム製品が抱える課題
ブリヂストンは、乗用車やトラック、バス、飛行機などの身近な交通・物流を支えるタイヤ、地震発生時に建物の揺れを低減し、私たちの生命を守る働きが期待される免震ゴムなど、幅広いシーンで私たちの暮らしを支えるタイヤ・ゴム製品を造っています。
現在、タイヤには、天然ゴムの他に合成ゴムなどの石油由来の材料が多く使われています。
また、使用済タイヤについては、日本では98%(2022年JATMA集計)が再利用されている一方で、現状は完全に元のタイヤに戻すこと(資源循環)は困難で素材として十分利用されず、焼却処理する時に発生する熱を燃料として再利用されることが多いものの、CO2が排出されてしまうという課題があります。
GI基金事業における取り組み
GI基金事業では、こうしたタイヤの製造・廃棄物処理時に発生するCO2排出量を削減し、カーボンニュートラルや資源循環を目指すため、ブリヂストンにて、使用済タイヤを化学的に分解し、タイヤの原材料である分解油、再生カーボンブラックに戻してから、再度タイヤとして生まれ変わらせるケミカルリサイクル技術の開発とその社会実装に向けて取り組んでいます。
タイヤのプロであるブリヂストンの皆さんも、タイヤを原材料まで分解する「熱分解」という技術は新しい試み。開発に携わる現場担当者の皆さんからは、何から着手したらよいかと手探りでスタートし、社内チーム作りやメンバー間で共有する作業マニュアルの作成、外部とのパートナーシップの構築など、カーボンニュートラルという大目標に向けて社内・社外問わず一丸となって取り組んでいるというお話を聞くことができました。
右:大学生にもわかりやすい言葉で説明してくれる開発現場の皆さん
2050年カーボンニュートラルに向けて
開発現場の皆さんの努力のもと、様々なパートナーとの共創を通じて2023年までは基礎技術開発を行い、今後パイロット試験のフェーズに移行していきます。2030年までに量産を想定した大規模実証を予定しており、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて着実な一歩を進めています。
タイヤがタイヤに生まれ変わる未来、それは、タイヤに関わる産業のカーボンニュートラル化、および持続可能な社会の実現です。GI基金事業が環境負荷を減らす重要な取り組みであるとともに、実は私たちの生活にも直結していることを感じてもらう機会になりました。
ブリヂストンの皆さんからのメッセージ
これからは「タイヤはリサイクルできるようになる」という世界が来ることを知ってもらうことが第一歩だと思います。廃棄物の仕分けやサステナブルが大事だという考え方が広まり、共感してもらうことが、私たち企業のカーボンニュートラルの実現を目指す技術開発の後押しになります。タイヤ業界だけでなく、様々な企業とともに取り組んでいきたいと思います。
大学生からの感想
「カーボンニュートラルな社会を実現するためには沢山の企業との技術共有が必要だと感じました」小林さん
「今日学んだ熱分解でタイヤがリサイクルされることを、友達に自慢したいと思いました!」的場さん
「生活者がリサイクル品を買うメリットはどういうところにあるかなどを考えるきっかけができました」山本さん
「持続可能な社会を実現していくための技術開発をしていることを知る良い機会でした」郡司さん
「化学の偉大さを実感するとともにサステナブルな製品を私たちがどう選択するかを考えるきっかけになりました」四元さん
「熱分解を行ったカーボンニュートラルの話は、これからの地球を守る、意味のある実践になればいいと思いました」鈴木さん
「企業が行っているカーボンニュートラルへの取り組みを細かく知り、少しだけ未来の世界への希望が持てました」大石さん
「ゴムのリサイクルという技術開発に、高校の化学の分野で勉強したことが実際に行われているのだと実感しました」鬼頭さん
「私たちが普段使っている“モノ”の裏には生活や環境をより良いものへと変えて行きたいという思いがたくさん詰まっているのだと知ることができました!」澤井さん
最後に
大学生からの「一般生活者が、単価が高いリサイクル製品を買うメリットはあるのか?」という素直な質問に端を発し、コストの大小ではなく、サステナブルな社会の実現に向けて何を優先すべきか、選択すべきかを考えるきっかけとなりました。
企業の技術開発努力だけでなく、私たち自身もカーボンニュートラルに向けて意識を変えていくことが「2050年カーボンニュートラル」実現のためのヒントなのかもしれません。
カーボンニュートラルな未来へ。
一人一人ができることを考え実行すること、そして力を合わせていくこと。GI基金が後押しし、挑戦する企業、そして私たちも一緒になってイノベーションを起こしていく。
このレポートが、そんな未来を考えるきっかけとなれば幸いです。
最終更新日 2024/01/22