次世代型太陽電池・洋上風力発電の拡大をカーボンニュートラルへの一手に再生可能エネルギーの新たな展開

再生可能エネルギーの新たな展開

再生可能エネルギー(以下再エネ)とは、自然界に存在するエネルギー源で、太陽光・風力・水力・地熱等が含まれます。発電時にCO2を排出しない、枯渇しない、国内で生産できる、といった魅力があり、カーボンニュートラル社会におけるエネルギー源として大いに注目されています。
グリーンイノベーション基金事業では、次世代型太陽電池と洋上風力発電の技術開発を対象とし、これまでは発電装置を設置できなかった場所への設置、発電を可能とする技術を開発し、再エネの導入量を増やすことを目指しています。

主力電源化が期待される再生可能エネルギー

日本のエネルギー政策は、安全性(Safety)を大前提とし、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時達成するという意味の「S+3E」を基本方針に掲げています。様々なエネルギー源を組み合わせて「S+3E」を重視した電源構成の最適化をはかっていくエネルギーミックスの方針が2015年に発表され、中長期的な展望を描きながら運用されています。

エネルギーミックス実現欠かせないのが、自国での生産可能で、炭素含まないエネルギー源ある再エネです。2021年10月定められた「第6次エネルギー基本計画」では、2019年時点で総発電電力量18%だった再エネ比率を、2030年には36~38%程度まで高める目標が設定されました*1
再エネ比率拡大に向けて、伸びしろの大きさが期待されるのが太陽電池と洋上風力発電です。太陽電池はすでに実用化されており、風力エネルギーの活用としては陸上に設置される風車がかなり普及しています。しかしいずれも、技術開発が進めば容量をもっと増やせると見込まれています。太陽光や風という自然由来のエネルギーですので、資源が枯渇することがないのも特徴です。

引用元:資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ記事「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」」掲載図をもとに作成

再エネ拡大に向けた着目点(1):太陽光エネルギー

再エネ比率拡大に向けた取り組みとして、まずは太陽電池の可能性について見ていきましょう。

太陽電池とは、太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変える装置のことです。ソーラーパネルと言われるものは、太陽電池の板を並べたパネル状の設備です。ソーラーパネルを使って太陽光エネルギーを集め、発電するという取り組みは、何十年も前から取り組まれてきました。

日本太陽光発電は、国土面積あたり発電設備容量主要国第1位です*2。平地面積あたり見る次点ドイツ2倍以上と、活用多さ際立ちます。しかしそれでも、2030年目標値達成するにはさらなる容量拡大必要です。

引用元:経済産業省 総合資源エネルギー調査会 第1回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 資料3「再生可能エネルギーの長期電源化及び地域共生に向けて」p8を参考に作成

平地面積あたりの設置容量が多いほど、設置可能な残りの土地は限られてきます。これまで、太陽光発電においてはメガソーラーと言われるような大規模発電設備が1つのモデルとなってきました。日あたりのよい広大な土地にソーラーパネルを並べて発電するような形態です。今後、メガソーラーを増やして発電量を増やしていくことも1つの選択肢ですが、すでに平地での設置容量が大きい日本にとっては、適する平地を探すのがどんどん難しくなっています。

一方、太陽光発電ができる場所は、空き地とは限りません。住宅や工場、倉庫等の屋根や壁面にも、太陽光はよくあたっています。そこで、これまでは設置が難しかった壁面や屋根で太陽光発電ができないかという取り組みが始まりました。軽量さや柔軟さがありつつ、既存電池に匹敵する性能の太陽電池ができれば、設置場所の選択幅が広がります。

次世代型の「ペロブスカイト太陽電池」の特徴と可能性

次世代型太陽電池とは、既存技術ではできなかったところでも発電を可能にするような、新たな太陽電池全般を指します。

これまで太陽電池95%以上シリコン使って作られました*3。シリコンというのは「ケイ素」という元素指しおり、太陽光当たるその内部ある電子動く性質あります。この内部動きが、電気創り出します(電子あるところからないところ動くことで、エネルギー発生)。

引用元:資源エネルギー庁 広報パンフレット「マンガでわかる電気はあってあたりまえ?」掲載図を参考に作成

現在普及している太陽電池の約95%は、シリコンを使ったタイプです。発電効率がある程度高く、原料であるケイ素も比較的豊富なため、このように普及してきました。

一方、太陽電池を作るには、他にも2つ、方法があります。
1つが化合物系というもので、シリコンの代わりに複数物質をもとにした化合物を使います。銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)等が、化合物を構成する物質です。太陽光が当たることで、ここに含まれている電子等が動き、発電する仕組みです。

もう1つは、有機系の太陽電池です。シリコン系や化合物系は金属等の無機物と言われる素材ですが、有機系は炭素を含む物質です。基本的な仕組みは他と同様で、太陽光エネルギーが当たったときにその有機物・有機化合物に含まれる電子等が動いて発電します。

次世代太陽電池を開発していくうえで、従来のソーラーパネルに使っているようなシリコン系のままでは、軽量性や柔軟性への対応が難しいという課題があります。そこで、シリコン系をさらに発展させる、あるいは化合物系や有機系を用いるといった方法で、新たな太陽電池の開発が求められています。

その中で現在最も有望視されているのが、有機系の1つであるペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイトとは灰チタン石(かいチタンせき)のことで、「ペロブスカイト構造」と呼ばれる独特な結晶構造を持つ物質です。現在はまだ研究開発段階ですが、エネルギー変換効率をここ数年で大幅に向上させており、軽量性・柔軟性・低コスト化を兼ね備えているからです。

<ペロブスカイト太陽電池の特徴>*4

  • エネルギー変換効率が進んでいる理由:最初の開発時は液体状で、変換効率は3%台であった。その後固体型の開発に成功して変換効率が10%以上となった。近年、材料や製法の改良を進める中でさらなる高効率化が進んでいる。
  • 軽量性が高い理由: シリコン系で使っている材料は割れやすいので、通常は厚さ3mm程度のガラスとバックシートフィルムで太陽電池セルを挟んでいる。一方、ペロブスカイト太陽電池は、原料を含む溶液を軽量基板上に塗ってペロブスカイト結晶薄膜を形成し、さらに電極層などを積層して薄膜セルとし、樹脂フィルムでカバーするが、重量としてはシリコン系の10分の1程度が目指せるレベルである。
  • 柔軟性が高い理由:小さな結晶の集合体が膜になっているため、折り曲げやゆがみに強い。
  • 低コスト化が実現できる理由:ペロブスカイト層を貼り付けるのは印刷でもできるので、1日にたくさん製造できる。また、材料に貴金属などは使わず、比較的手に入りやすいヨウ化鉛等を使うため、製造コストも抑えられる。
  • 原料に関する特性:ヨウ素を主要な材料に使っているが、ヨウ素の生産量は日本が世界シェア30%を占めており、安定供給が見込まれる。

ペロブスカイト開発については、欧米や中国でも研究開発が盛んに進められています。シリコン系太陽電池に対抗してゲームチェンジを起こす可能性があると、注目されているのです。日本では、これまで大学や研究機関、民間企業を中心に研究が進められており、世界最高の変換効率を記録するモジュールのプロトタイプ製作に成功するなど、先駆的な成果を生み出してきました。しかし、世界的な競争が激化する中で、製品化・市場獲得を進めていくためには、いかに他国に先行して実用化できるかがカギとなります。さらなる変換効率の向上や低コスト化の促進、大面積化といった課題の解決を目指してグリーンイノベーション基金事業で開発を支援し、従来型シリコン系太陽電池と同等の発電コスト14円/kWh以下の達成を、2030年までに目指しています。

具体的には、次のような開発が現在進んでいます。

  • ペロブスカイト太陽電池を、よりエネルギー変換効率が高く、かつ耐久性を高めるために、最適な材料を開発する
  • 変換効率と耐久性向上の両立に役立つような太陽電池を目指し、ペロブスカイト結晶構造を改変するなどの技術も追求する
  • 量産に向けて、ペロブスカイト結晶薄膜等をいかに大規模に製造していけるかの技術を開発する
  • 性能評価等をするための技術を開発する

開発した太陽電池は、検証段階で実際に建物等に設置し、施工方法等を含めた性能検証を行い、改良を重ねていく予定です。産学官で連携し、実際の設置に関わる事業者とも連携体制をとりながら、競争力のある産業へと進化させていきたいと考えています。

再エネ拡大に向けた着目点(2):風力エネルギー

再エネ比率を高めるために、太陽光エネルギーと同じく容量拡大が期待されるのは、風力発電です。

風力発電とは、風車回し、風車回転発電機伝送して電気エネルギー変えるという発電方法です。理論的には風速2倍なると、風力エネルギー8倍なります。風車形式よって異なりますが、風力発電風力エネルギー最大30~40%程度電気エネルギー変換でき、効率高いのが特徴です*5

風車は、陸上洋上両方設置することできます。ただし、現在日本設置されている風力発電設備ほとんどは、陸上型です。2020年時点での発電量は、陸上風力発電4.5GW、洋上風力発電ごくわずかとどまってます*6。しかし、陸上風況等条件よい場所多くすで風力発電設置されているのが現状です。つまり、陸上風力発電適地は、徐々限られくるわけです。

一方、発電に必要な風のエネルギーは、陸上より洋上の方が大きくて安定していて、四方を海で囲まれた日本では、洋上風力発電に適した場所が多くあります。欧州では先行して洋上風力発電の導入が進んでおり、日本でも洋上風力発電の活用に向けた取組が加速してきました。冒頭に示した「第6次エネルギー基本計画」の実現に向けて、2030年の発電電力量として陸上風力発電で17.9GW(ギガワット)、洋上風力発電で5.7GWが目標として掲げられています。現時点で洋上風力発電がほぼ行われていないことを考えると、目標達成へのハードルはかなり高いのが現状です。

洋上風力発電の特徴と可能性

洋上風力発電は再生可能エネルギーのなかでも、大量導入の可能性があり、再エネ比率の拡大および低コストで安定した電力供給への貢献が期待されています。また、風力発電設備の部品数は数万点もあり、関連産業への経済波及効果や地域活性化にもつながることが見込まれています。

洋上風力発電は陸上風力発電と比較して次のようなメリットがあります。

  • 風況がよく、風の乱れが小さい環境で発電ができる
  • 土地や道路の制約が少なく、大型風車の導入が比較的容易
  • 景観、騒音への影響が小さい

一方、陸上風力発電と比べて以下にかかるコストが増加します。

  • 洋上風車の基礎
  • 洋上風車の建設及び維持管理
  • 洋上変電設備及び海底ケーブル

いかに工夫してコストを押さえるかという点が、実用化に向けては重要になってきます。
洋上風力発電は、設置方法によって大きく着床式と浮体式にわかれます。

着床式とは、海底に固定した支持構造物(基礎)に風力発電機を取り付けて発電する方式で、一般的に水深50mより浅い海域で経済的に有利とされています。浮体式とは洋上に風車を浮かべて発電する方式で、鎖等で海底につなぎとめます。水深が50mを超える海域では着床式に比べて経済的に有利とされています。欧州では遠浅な海域が長く続くため着床式が多く採用されてきましたが、日本は近海で水深が急に深くなることから、深い海域にも設置可能な浮体式への期待が高まっています。浮体式の発電設備は、主に風を受けて発電する風車・風車を載せる浮体・浮体を海底につなぎとめる係留によって構成されています。洋上の気象・海象条件、海底の地形やその海域の流れの速さ等を考慮して安全なシステムを設計する必要があります。各要素技術の最適化と構造物としての一体設計、そして量産化を可能にする技術開発等が期待されています。

(着床式)銚子沖へ設置した着床式洋上風力発電の実証設備
(浮体式)北九州市沖へ設置した浮体式洋上風力発電システムの実証設備
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101085.html
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101098.html

「洋上風力産業競争力強化向けた官民協議会」及び NEDO は、開発すべき要素技術絞り込み行い、2021年「洋上風力産業競争力強化向けた技術開発ロードマップ」*7として取りまとめました。

グリーンイノベーション基金事業では、そのロードマップ基づき、技術成熟度比較的低く、長期支援必要なる分野重点化し、「次世代風車技術開発」「浮体式基礎製造・設置低コスト化技術開発」「洋上風力関連電気システム技術開発」「洋上風力運転保守高度化」研究開発項目定めました。遠浅海域少ない日本「2040年まで3000万~4500万kW案件形成する」いう政府掲げた目標*8達成するために、浮体式中心とした洋上風力発電早期コスト低減ねらい、導入拡大はかっていきます。

再エネのさらなる導入拡大に向けて

国際機関分析よる日本再エネ導入量世界第6位で、再エネ発電量この7年間約3倍拡大してきてます。その増加スピードは、世界トップクラスです。一方、太陽光発電風力発電も、コスト着実低減しているもの依然として世界水準比較して高く、低減スピード鈍りつつあります*9

引用元: 経済産業省 資源エネルギー庁 第5回地域社会における持続的な再エネ導入に関する情報連絡会 資料1「2030年に向けた今後の再エネ政策」p6を参考に作成

世界動向見てましょう。まず太陽電池ついては、世界的屋根置き設置進む国際機関報告書想定されいます*10。次世代型太陽電池研究開発は、世界各国研究機関等しのぎ削っている状況で、スピーディ事業展開どれだけできる勝負なってきてます。一方洋上風力発電ついては、欧州中心導入拡大してます。風車大型化プロジェクト大型化同時進展し、建設工事効率化発電効率向上より、発電コスト大きく低減してきているところです。また、中国・台湾・韓国中心アジア市場急成長見込まれます。

屋根や壁に設置して発電できる可能性がある次世代型太陽電池と、日本の四方を取り巻く海域を活用した洋上風力発電。現在まだ有効活用できていない領域での発電は、今後の新たなエネルギー源として大きな可能性を秘めています。この2つをグリーンイノベーション基金事業で重点的に取り組み、2019年時点で総発電電力量の18%だった再エネ比率を、2030年には36~38%程度まで高めるという目標の達成に寄与することを目指していきます。

最終更新日 2024/01/24