グリーンイノベーション基金事業で再生可能エネルギーの活用拡大へ「次世代型太陽電池」と「浮体式洋上風力発電」の実用化をめざす

「次世代型太陽電池」と「浮体式洋上風力発電」の実用化をめざす

記事「再生可能エネルギーの新たな展開 次世代型太陽電池・洋上風力発電の拡大をカーボンニュートラルへの一手に」では、再生可能エネルギー(以下再エネ)の重要性と、これから活用が期待される「次世代型太陽電池」と「洋上風力発電」について見てきました。実用化に向けてはどのような課題があり、どのような取り組みが進んでいるのか。プロジェクトを推進する方々にお話を伺いました。

再生可能エネルギー発展のために取り組むこと

――再エネの発展に対して、国としてはどのような点を重視しているのでしょうか

能村幸輝氏(以下、能村氏):ロシアによるウクライナ侵略を契機に、世界のエネルギー情勢が一変する中、国内で生産ができ、化石燃料由来ではないエネルギー源である再エネは、ますます重要になってきています。国としては、安全性、安定供給、経済性、環境の同時達成を目指す「S+3E」を大前提に再エネを導入していくことを方針としています。再エネの一層の導入拡大に向けては、発電設備の設置拡大やコスト低減のための技術開発の加速化が期待されます。こうした視点から、次世代型太陽電池と浮体式を中心とした洋上風力発電は、更なる再エネの導入につながる可能性が高いことから、グリーンイノベーション基金事業において、取り組みを進めています。

――次世代型太陽電池には、どのような課題があるのでしょうか

能村氏:日本ではすでに、数多くの土地で太陽光発電がおこなわれています。結果的に、大規模に太陽光パネルを設置するのに適した土地は、かなり限られてきています。太陽光発電の拡大には、立地制約の克服がカギとなりますが、既存の太陽電池は、耐荷重が小さい建築物の屋根や、壁面への設置は容易ではありません。電池の軽量化や、壁面等の曲面にも設置できる柔軟性等を高め、これまでは設置できなかった場所にも設置できる次世代型太陽電池の導入が進めば、発電の総量が高められます。次世代型太陽電池の開発は世界各国で進められていますが、高い性能を有する製品を早期に実用化できれば、国内市場への供給拡大のみならず、海外市場への展開も期待できると考えています。

――洋上風力発電における課題についても伺えますか

能村氏:洋上風力発電は、設置に適した遠浅海域がある欧州で開発が先行してきました。日本でも再エネ主力電源化の切り札と位置づけ、2019年より再エネ海域利用法にもとづき順次促進区域を指定、発電事業者を公募・選定し、主に着床式の導入を進めています。一方、導入目標の達成に向けては、より沖合で大型の案件形成をすることが必要です。そのためには、設置に関する地元住民からの理解を得るとともに、地元漁業等との共生をいかに実現していくかが求められています。 その際に必要なのは、日本の地形や海象条件に合った発電設備です。遠浅海域では着床式の設置が比較的容易ですが、日本近海では水深が急に深くなることから、近年は浮体式の実用化に力を入れています。大幅なコスト削減や発電量拡大を目指し、技術開発に取り組んでいるところです。

次世代型太陽電池の実用化に向けた取り組み

――1つめの次世代型太陽電池について、有望視されているペロブスカイト太陽電池は、どういう特徴があるのでしょうか

小浦克之氏(以下、小浦氏):ペロブスカイト太陽電池は、手で持って曲げられるほどの軽さと柔軟性があることが第1の特徴です。加えて、太陽光エネルギーを電力に変換する効率性において、ここ数年で飛躍的に性能を高めてきました。現在広く使われているのはシリコン系と言われる種類の太陽電池で、これは母材が薄く割れやすいため平地に置くには適していますが、曲げたりすることには適していません。太陽電池の設置場所拡大に向けた適性があるという点で、ペロブスカイト太陽電池が注目され始めました。
太陽電池として使うには、ペロブスカイト原料を含む溶液をつくり、結晶の薄膜を形成します。小さな結晶の集合体が膜になっているため、折り曲げやゆがみに強いのです。これをガラス基板やプラスチックフィルムに塗布することで太陽電池を生成します。ペロブスカイト結晶は低温で製造できるので、高温化するコストが発生しないという利点もあります。

――グリーンイノベーション基金事業ではどのような取り組みに力を入れていきますか

小浦氏:まず、ペロブスカイト太陽電池自体に関して高い変換効率と耐久性を両立する基盤技術を進めています。また、製品として使えるレベルにまで大型化する技術確立を進めます。さらにこれらを実際に建物等に設置して使うフィールド実証も行う予定です。施工時に起きる問題はないか、見込み通りの変換効率が実現できるかといった点を確認していきます。

――基盤技術開発は、どのように取り組んでいるのでしょうか

小浦氏:ペロブスカイト太陽電池は、有機と無機の材料の混合物を原料としています。原料と溶液の数万通り以上の配合方法から最適な組み合せを見出すこと、そして、変換効率の向上と長期にわたり性能を維持する耐久性を実現することが重要です。 まず、最適材料組成開発ついては、マテリアルズ・インフォマティクス技術*1言われるような、デジタル技術活用して、変換効率耐久性両立する原料配合温度管理手法等、膨大な組み合わせなかから効率的な最適方法導くため検証実施しています。ここバーチャル上で検証進めます。 次に、変換効率と耐久性を両立するための要素技術開発を目指します。結晶構造や材料同士の接合最適化等を検証し、確立していくものです。バーチャルに見出した組み合わせを実際に試し、最適なものを確立していくわけです。

――実用化事業として取り組むことを、もう少し教えてください

小浦氏:ペロブスカイト太陽電池をつくるうえでは、電極形成、発電層塗布、パターニング、電極形成、という工程を重ねていきます。実用化に向けては、900cm2以上のモジュールへと大型化することが求められます。しかし単に大型化すると変換効率や耐久性が低下しますので、変換効率や耐久性を維持できるような工夫が必要です。 たとえば発電層塗布においてナノレベルで均一に塗布することは大型化への1つの要素技術になり得るものです。複数の塗布方法の比較検証、最適なインクや添加剤の探索等を進めながら、実現を目指しています。 また、実用化に向けては低コストであることも重要です。目標にしているのは、発電コスト14円/kWhという水準で、これは、現在の業務用電力小売価格並みの金額です。業務用電力小売価格を下回る水準で発電することができれば、電力を購入するのではなく、ペロブスカイト太陽電池により発電する方が経済的となることから、実現できれば社会を支えるペロブスカイト太陽電池が普及し、主力エネルギーになることでしょう。現時点では倍ほどのコストがかかっていますので、技術革新と最適な製造プロセス確立によっていかにコストを低減できるかもポイントとなってきます。

――ペロブスカイト太陽電池の特徴である軽量性・柔軟性を活かした設置方法や施工方法等を含めた性能検証のため、フィールド実証も行っていくそうですが、すでに具体的に予定されているのでしょうか

小浦氏:実証事業へと進むためには、あらかじめユーザー企業等のニーズを取り込んだ技術開発をすることが、国内外の市場開拓、製品の信頼性獲得、効率的な生産体制の確立に欠かせないと考えています。そこでペロブスカイト太陽電池の技術開発に留まらず、フィールド実証への展望も含んだ研究開発計画であることを、グリーンイノベーション基金事業の参画条件として重視しました。中には、ユーザー企業とのフィールド実証をすでに公表している取り組みもあります。たとえば東京都の下水道施設「森ケ崎水再生センター」というところでは、ペロブスカイト電池を設置して実用化に向けた検証を開始しています。水処理設備の蓋の上に敷き詰めるように設置し、発電効率の測定や耐腐食性能等を検証していきます。

洋上風力発電の拡大に向けた取り組み

――洋上風力発電はどういう特徴があるのでしょうか

小浦氏:洋上風力発電には他の電力に比べて、大きく3つの強みがあります。1つめに、日本は四方を海に囲まれているため、大量導入が期待されています。2つめに、洋上風力発電の技術は欧州を中心に発達しており、さらなる技術発展により低コスト化が進む可能性があります。欧州では風車の大型化とプロジェクトの大型化が同時に進展し、発電効率の向上や建設工事の効率化により、発電コストが大きく低減してきました。そして3つめに、洋上風力発電設備は部品点数が多いのが特性です。事業規模が数千億円にいたる部品もあり、関連産業への波及効果が大きい点も注目されています。

――グリーンイノベーション基金事業では何に重点をおいているのでしょうか

小浦氏:政府の目標として、2030年には10GW(ギガワット)、2040年までには30GW~45GW規模の案件形成が挙げられているなか、設置海域の制約が少ない浮体式を中心に、洋上風力発電の早期の大量設置につながる技術開発に重点を置いています。まずは要素技術開発として、「風車」「浮体製造・設置」「電気システム」「運転保守」の4領域に同時に取り組みます。そして浮体式洋上風力実証事業として、風車・風車を載せる浮体・電気ケーブル・浮体を海底につなぎとめる係留等の一体設計を行い、システム全体として関連技術を統合した実証を行っていきます。

――次世代風車技術は、何が重視されていますか

小浦氏: 2030年までにはさらに風車の大型化が進み、15MW超~20MWクラスになることで発電効率向上・コスト低減に寄与することが見込まれています。一方、台風や地震が多い日本の自然環境を鑑みると、欧州と同じような大型化が必ずしも最適ではない可能性があります。アジアへの将来展開も想定しながら、気象条件を踏まえた風車仕様の工夫や、風車・浮体・係留や制御システムとの一体型設計等で最適化を図っていく予定です。

――浮体式基礎の製造・設置に関しては、何がポイントでしょうか

小浦氏:浮体形式には複数あり、設置される環境により向いているもの、向いていないのもがあります。日本は水深、海底地形、海象等が多様なので、1つの浮体形式に絞り込まず、並行して複数方式の開発を進めることにしました。日本の強みとして、造船技術の厚い基盤がありますので、技術基盤やドック等のインフラ活用も含めて、浮体の大量生産技術を世界に先駆けて確立することを目指しています。 具体的には、5つの観点で技術開発を行っています。1つめは「浮体基礎の最適化」です。風車の大型化や複雑な海底地形等の自然条件に対応できる最適な浮体基礎を開発し、材料を減らすことでコスト削減を目指します。2つめは「浮体の量産化」です。連続的に製造できるよう、ブロック化や分割施工などを検討しています。また、生産拠点の拡大に向けて、ドックがなくても製造できるような技術確立を目指しています。3つめは風車を海底につなぎとめておく「係留システムの最適化」です。複数の浮体式を共有のアンカーでつなぎとめる方法や、海中での専有面積が少なくてすむ方法等を組み合わせながら、低コストで漁業とも協調できるシステム開発を進めています。4つめとして、「ハイブリッド係留システム」にも取り組んでいます。軽量化が可能な合成繊維を活用し、鋼製とのハイブリッドとすることでコスト低減をはかるという発想です。そして5つめに「低コスト施工技術の開発」にも取り組みます。浮体基礎をどうやって設置場所まで運び、据え付けるか。曳航方法やジャッキアップ型作業構台を活用した施工方法などを検討し、確立していくことを目指します。

――「電気システム技術開発」と「運転保守高度化」事業についても、教えてください

小浦氏:浮体式の場合は、海底に固定せず浮体の挙動に合わせて浮遊するダイナミックケーブルというものが使われ、大規模な浮体式洋上風力発電を導入するためには、高電圧化への対応、高耐久性や揺れに対する高度な制御が求められています。そこで、風車の大型化に対応できる高電圧のダイナミックケーブルを開発することで、1本のケーブルに接続できる風車の数を増やし建設工事やメンテナンスの効率化等を図り、洋上送電の低コスト化を目指します。あわせて、浮体式の洋上変電所を実現して効率的に送電できる仕組みについても着手しています。 また、洋上風力が大規模化していく中で、運用・保守の高度化も求められます。たとえば浮体式は着床式よりも深い海域に設置できますが、メンテナンスのために人が赴くのはより大変です。陸上風力で導入されているスマートメンテナンス技術の応用等デジタル技術も取り入れながら、予防保全、監視、点検、故障判別等の高度化を図っていきます。あわせて、洋上での修理技術や作業員輸送船開発などを進め、安心できるメンテナンス体制を整えていきます。

再エネ拡大に向けたこれからの取り組み

――次世代型太陽電池の計画によって、カーボンニュートラルの実現にどのような効果が期待されていますか

能村氏:2030年世界約60万トン、2050には約1億トンCO2削減見込んでます。2030年時点算出背景としては、世界太陽電池市場うち次世代型太陽電池1%占める想定すると、その導入量は、約3.5GW想定されます。そのうち、日本企業シェア2010年以降ピークシェアある25%同等仮定したとき算出した数字です*2。この25%シェア日本おける経済効果置き換えると、2030年約125億円、2050年約1.25兆円規模算出されます。

――洋上風力発電の方はいかがでしょうか

能村氏:2030年国内CO2削減効果として、約300~700万トン/年、2050年約0.9億トン/年見込んでます。2030年時点算出背景は、政府委員会おける議論踏まえ洋上風力導入見込み量168~368万kw、設備利用率33.2%仮定した場合試算です*3。経済効果としては、2030年約1兆円、2050年約2兆円見込まれます。太陽光電池市場石炭火力用ボイラー同水準目安に、日本市場全体アジア25%シェア取得する仮定して算出ました。

――これからの展望含めてメッセージをお願いいたします

能村氏:海外でも研究開発が活発化しているペロブスカイト太陽電池ですが、限られた日本の国土には特に有望な手段と言えます。日本ではこれまで大学や研究開発機関、民間企業を中心に研究が進められ、世界最高の変換効率を記録してきました。今後も世界的な競争のなかでトップ集団であり続けるだけでなく、カーボンニュートラルに向けた更なる再エネの導入や、海外市場も見据えたビジネスにつなげていくために、一段と取り組みを強化する必要があります。官民一体となりチャレンジを加速させられるよう、さらに力を入れていきます。

能村氏:「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、魅力的な国内市場の創出、投資促進・サプライチェーン形成、アジア展開も見据えた次世代技術開発・国際連携を基本戦略に掲げました。国内市場の創出に向けて、政府プッシュ型での案件形成スキームも具体化しているところです。グリーンイノベーション基金での技術開発・実証成果を踏まえ、将来的には浮体式の洋上風力発電も視野に案件形成を加速し、国内の再エネ拡大への寄与と、将来的なアジア展開を見据えたサプライチェーンの形成に、総力を挙げて取り組んでいきます。

最終更新日 2024/01/29