アンモニアは、水素と同様に燃焼時にCO2を排出しない燃料として注目されています。NEDOグリーンイノベーション(GI)基金事業では、このアンモニアを燃料として発電分野でも活用する技術を確立することを目的に、液体アンモニア専焼ガスタービンの開発を進めてきました。参画企業のIHIは当初計画を2年前倒しして実証試験を完了し、現在は2026年度の商用化に向けて準備が進んでいます。
2025年10月までに基礎技術を確立
NEDOはGI基金事業で「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトを推進しています。このプロジェクトでは、①アンモニア供給コストの低減、②アンモニアの発電利用における高混焼化・専焼化――の2本立てで取り組んでいます。液体アンモニア専焼ガスタービンによる脱炭素化は後者の発電利用事業の1つで、IHIが幹事会社となって、東北大学、産業技術総合研究所とコンソーシアムを組んで液体アンモニア専焼ガスタービンの基礎的な技術開発に取り組んできました。
開発過程で直面した多くの課題(後述)を参画団体の知見と創意で克服し、2年前倒して2025年10月までに基礎技術を確立することができました。気体アンモニアと比較して、燃焼安定性などの面で難易度が高いと想定されていた液体アンモニア専焼技術を実現したものです。

IHI相生事業所のガスタービン施設と、NEDO鮫島康孝プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部アンモニア利用チーム長、左)、IHI理事アンモニアガスタービン開発部長の守屋信彦氏(右)
最大の難関、亜酸化窒素(N2O)の「ほぼゼロ」を達成
専焼技術を実現する上での最大の技術的障壁は、アンモニア燃焼時に発生する温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)の抑制でした。N2Oは、CO2と比較して約300倍という極めて高い温暖化係数を持ちます。従来の燃焼器を用いた場合では、アンモニアの混焼率が80%程度に達すると、せっかくのCO2削減効果がN2O排出によって相殺されてしまう状況にありました。
この難題を短期間で克服するため、実機開発を担当するIHIを中心に、基礎研究を担当する東北大学、中規模試験を担当する産業技術総合研究所がコンソーシアムを組み、三位一体のシームレスな連携体制を構築しました。
その結果、開発した燃焼器は従来型と比べて、未燃アンモニアとN2Oをほぼゼロに抑制し、アンモニア専焼で温室効果ガス削減99%以上という画期的な性能を達成しました。

開発した燃焼器のエミッション(排出物)の比率(出典:IHI)
達成できた理由について、IHI理事でアンモニアガスタービン開発部長の守屋信彦氏は、以下のように解説します。「複雑な燃焼器内の流動、化学反応、温度変化を統合した高度なシミュレーションと、実機(既存のIHI製2MW級ガスタービン「IM270」)を用いた迅速な試作・実機検証サイクルを回すことで、事業開始からわずか1年後の2022年度には、N2Oの排出をほぼゼロ(不検出レベル)に抑え込むことに成功しました」。
しかも、燃焼の安定性確保が困難とされていた液体アンモニアを直接噴霧する方式を採用しています。これにより、「燃料を気化させるための大型設備が不要となり、システム全体の簡素化とコスト低減を図ることができました」とIHIの守屋氏は説明します。
プロジェクトは当初7年間の計画でしたが、こうした一連の壁を早期に乗り越えることができる目途が立ったため、IHIからNEDOに対し、「2年短縮したい」という提案がなされました。鮫島プロジェクトマネージャーは、「研究計画の2年短縮というのはかなりチャレンジングでしたが、当時の研究開発計画は長期耐久性試験後に燃焼器性能検証や安全対策・運用改善を行うシリーズの開発計画となっていましたので、長期耐久性試験と「同時並行」で実施する開発工夫をすれば短縮可能と考え、IHIと膝を突き合わせながら何度も開発計画の内容変更について調整した結果、何とか2年という目標期間の前倒しが可能となり、早期社会実装が実現できるようになりました」と明かします。この柔軟で挑戦的なマネジメントにより、GI基金事業の特徴である「スピード感」が最大限に生かされ、技術的な成果を早期に事業化へと結びつける道が開かれました。

開発の経緯を説明するIHIの守屋信彦氏

2年前倒しで開発できたマネジメントについて語るNEDO鮫島康孝プロジェクトマネージャー
長期耐久性と安全対策を2700時間超の実機運転で徹底検証
燃焼器を商用化するためには、実験室レベルの成功だけではなく、実環境における高い信頼性と安全性が不可欠です。IHIは、コージェネレーションシステム(燃料を使って電気と熱を同時に作り出す熱電併給システム)全体として、実機同様の試験設備を用いた徹底的な実証を行いました。
2024年6月から2025年10月までの期間、IHIの相生事業所(兵庫県)では、2700時間超にわたる長期耐久性試験を実施しました。このシステムでは、前述したIHI製ガスタービンIM270に、新たに開発した燃焼器を搭載してアンモニア専焼による運転を行い、さらに排熱で蒸気発生器を稼動させ、実際の事業所で利用するコージェネレーションシステムの形態を採用しました。
ここで得られた電力と蒸気は、実際に事業所内の生産活動に活用され、実運用環境下での耐久性を証明しました。クリーンな燃料を使用したことに伴う脱炭素価値を大阪・関西万博へ提供することにより、大阪・関西万博の脱炭素化にも貢献しています。
長期運転後にはガスタービン内部の分解検査を行い、特にアンモニア環境下特有の損傷や劣化状況を詳細に評価して設計にフィードバックしています。
アンモニアを取り扱う際には、「漏れないようにする(未然防止)」、「漏れた場合の早期発見」、「漏れた場合の拡大防止」の3つの基本的な設計思想に則り、さらにそれを徹底する安全対策を講じました。具体的には、配管の接続部を溶接にしてフランジ(継手)をなくす、二重配管を採用する、漏れる可能性のある箇所には高感度の検出器を設置するなどの対策が施されています。作業員への教育や緊急時の避難訓練も並行して実施されており、地域住民への理解活動も含めて、社会受容性を高めるために総合的に取り組んできました。

ガスタービン施設の燃焼器関連部分(IHI相生事業所にて)
2025年11月中旬からは、商用化前の開発最終段階という位置付けで、IHI改良型燃焼器に切り替えた実証試験を相生事業所で実施しました。「主にNOx(窒素酸化物)のさらなる低減を目指し、さらにアンモニア環境下での材料の劣化評価などをフィードバックしながら、様々な設計の見直しを行いました。」とIHIの守屋氏は説明します。
マレーシアの国営企業と第1号機の商用プラントでの運転に向けた契約締結協議を継続
GI基金事業における2MW級アンモニア専焼ガスタービンの研究開発は2025年度で完了し、いよいよ商用化フェーズに移行します。開発が完了したガスタービンは、主に産業用として、大規模工場やオフィスビルなどの自家発電用途をターゲットにしています。コージェネレーションシステムとして導入することで、熱と電気をCO2フリーで効率的に供給することが可能です。
しかし、国内ではまだ燃料アンモニアの受け入れインフラ(港湾や貯蔵設備など)の整備が途上であるため、IHIは海外での社会実装を先行させる戦略を採っています。
この戦略のもと、研究開発段階からすでに、マレーシアの国営石油ガス会社ペトロナス(Petroliam National Berhad)の子会社であるジェンタリハイドロジェン(Gentari Hydrogen Sdn. Bhd.)と共同実証を行う計画を進め、第1号機の商用プラントでの運転に向けて契約締結協議を継続中です。これは、日本が主導して2022年に設立したアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の枠組みの中で進められています。アンモニア生産国からの早期社会実装を起点に、グローバルな市場展開をリードしていく狙いがあります。
NEDOのGI基金事業では、参画企業が研究結果を早期に十分確立された技術レベルで社会実装できることを視野に入れています。鮫島プロジェクトマネージャーは、「GI基金事業では、研究開発と企業の事業戦略をセットで考えています。できるだけ早く実証して市場を取っていくというところがポイントです」と説明します。
電力事業用大型ガスタービンへスケールアップ
GI基金事業で確立した2MW級の燃焼技術を、IHIは電力会社向けの大型ガスタービンにも展開します。2024年、世界的なガスタービンのOEMである米国のGEベルノバ(GE Vernova)と共同開発契約を締結して、200M〜300MW級の大型ガスタービンに応用します。
大型機への技術適用を確実なものとするため、IHIは相生事業所内に大型の燃焼試験設備を新設し、GE Vernovaの大型機種向けの燃焼器の燃焼試験を開始しました。IHIの守屋氏によると、「大型ガスタービンの出力は、2MW級の100倍以上になりますが、燃焼器のスケールアップ自体は2〜3倍程度で済むため技術的には十分実現可能です」と自信を見せています。
本プロジェクトの成果は、日本が世界のカーボンニュートラル実現に向けた技術競争で優位に立つことを示すものです。「GI基金事業による液体アンモニア専焼ガスタービンの開発は2025年度で完了しますが、2026年度の商用化、そして大型化・グローバル展開を通じて、この革新的な技術が世界の発電分野の脱炭素化を力強く牽引していけるよう、引き続き、IHIとNEDOで連携して取り組んでいきたいと考えています。」とNEDOの鮫島プロジェクトマネージャーは説明します。NEDOは、今回の成果も踏まえて、カーボンニュートラルの実現へ向けて燃焼時にCO2を排出しない燃料を使ったサプライチェーンの構築と関連技術の開発になお一層注力していきます。

