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2026.02.06
エネルギー構造転換分野インタビュー

水素発電実用化へ「準備完了」 大型ガスタービンによる水素混焼で実証

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脱炭素社会の実現に向け、次世代エネルギーとして世界的に注目を集める「水素」。その社会実装において、最も大きな需要先として期待されているのが発電分野です。NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金事業「大規模水素サプライチェーンの構築」プロジェクトの一環として、参画企業の関西電力は兵庫県の姫路第二発電所において、既存の大型ガスタービンを活用した水素混焼発電の実証試験を行ってきました。実証試験を2025年9月末に概ね終了し、大規模での水素混焼発電の実用化へ向けて準備が整いました。2026年3月で本プロジェクトは終了し、その後に本格的な商用化を目指します。水素発電の実用化へ向けて目途を付けた今回の実証試験の成果は、水素社会の到来を見据えた重要なマイルストーンと位置付けられます。

関西電力姫路第二発電所で実証試験に使われた大型ガスタービンによる水素混焼設備のエリア全体写真。5号ユニットはガスタービンを含む発電設備全体を示す(出典:関西電力)

既存設備を活用した水素混焼で「燃焼速度8倍」の壁を突破

カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの導入拡大だけではなく、安定した電源である火力発電の脱炭素化が不可欠です。その切り札となるのが、天然ガスに水素を混ぜて燃やす「水素混焼発電」です。しかし、既存の発電設備で水素を使うことは、技術的に簡単なことではありません。

水素発電の実用化において、最大の技術ハードルは燃焼速度の違いにあります。この点について、NEDO水素・アンモニア部大規模水素利用ユニットGI水素チーム チーム長の釘宮貴徳プロジェクトマネージャーは、「水素は天然ガスに比べて燃焼速度が約8倍速いという特性を持っています。この特性ゆえに、既存のガスタービンでそのまま水素を燃やそうとすると、燃焼器から噴き出した炎が燃料供給口へと戻ってくる逆火(ぎゃっか)という現象が起こるリスクがあります。そうなると、燃焼器に深刻なダメージを与えかねません」と説明します。

NEDO水素・アンモニア部大規模水素利用ユニットGI水素チーム チーム長の釘宮貴徳プロジェクトマネージャー

さらに、関西電力の水素事業戦略室国内事業グループ チーフマネジャーを務める中田博之氏は、「燃焼速度の違いに加えて、水素と天然ガスでは燃焼時の特性が異なるため、燃焼振動と呼ばれる燃焼器内部で発生する圧力変動が発生しやすくなるという課題もあります。この振動が大きくなれば、設備の破損につながる恐れがあるのです。さらに、水素は燃焼温度が高くなりやすいため、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)の生成量が増える傾向にあり、環境性能の維持も重要な課題でした」と続けます。

関西電力の水素事業戦略室国内事業グループ チーフマネジャーを務める中田博之氏

今回の姫路第二発電所でのプロジェクトは、当初は中型のガスタービンを用いて実証する計画でした。しかし、社会実装を踏まえた将来の効率的な実運用を見据え、よりハードルの高い大型ガスタービンでの実証へと大きく舵を切りました。2023年3月のことでした。

NEDOの釘宮プロジェクトマネージャーは、「関西電力は最新鋭の設備である姫路第二発電所の大型プラントを用いた実証に精力的に取り組んでいます。これは、単なる実証試験ではなく、将来の商用化を強く意識した結果です」と振り返ります。

実証試験では、体積比30%までの水素の混焼を目指しました。具体的には、既存のガスタービン5号機の燃焼器を三菱重工が開発した水素混焼用に改造しました。実際に水素を投入し、安定して運転できるかどうかの検証を行いました。

検証のポイントは3つありました。第1に「燃焼の安定性」です。前述した逆火や燃焼振動を抑制し、安定した火炎を維持できるか。第2に「出力制御と運転の柔軟性」です。電力需要は刻一刻と変化するため、発電所は指令に合わせて出力を細かく調整する必要があります。水素を混ぜた状態でも、天然ガス専焼時と同様に、スムーズに出力を上げ下げできるか、あるいは急激な負荷変動に追従できるかが問われました。そして第3に「環境性能」です。NOxの排出量を環境基準値以下に抑えられるかどうかを検証しました。

その結果、「実際の試験では、燃焼調整から始め、安定燃焼が維持できることを確認しました。さらに、出力を上げる際の時間や安定性、水素供給を急に遮断した場合の挙動など、実際の商用運転で想定される様々なケースをテストしました。NOxに関しても、アンモニアを用いた脱硝装置によって適切に処理できることを確認しています。これにより、既存の大型ガスタービンにおいて、体積比で30%までの水素混焼が技術的に可能であるという結論を得ることができました」と関西電力の中田氏は成果を示します。

これは、単に燃やすことができたというだけでなく、電力系統の安定化に寄与する調整機能を維持しながら、水素発電が可能であることを証明した画期的な成果といえます。

専門家の知見を生かし「漏らさない、溜め込まない」安全対策を徹底

水素という新たな燃料を扱う上で、地域住民や社会からの理解を得るために最も重要なのが安全性です。「水素は爆発しやすいのではないか」というイメージが先行しがちですが、適切な管理を行えば安全に利用できるエネルギーです。今回の実証試験では、安全対策においても徹底して取り組みました。

関西電力の中田氏は、安全対策の基本原則として「漏らさない、溜め込まない」の2点を強調します。水素は分子が非常に小さいため、天然ガスよりも漏れやすいという特性があります。そこで今回の実証設備では、配管の継ぎ目を可能な限り溶接構造にすることで、物理的に漏れる箇所を減らす対策を施しています。同様の技術は従来の天然ガス設備でも採用していますが、それ以上に厳格な施工管理を行いました。

万が一漏洩が発生した場合に備え、水素検知器を要所に配置し、早期発見・早期対応が可能な体制も構築しました。さらに、水素は空気よりも非常に軽いため、漏れてもすぐに上昇して拡散するという特性があります。この特性を生かし、建物や設備カバーの構造を、水素が天井付近に滞留しないよう通気性を確保した設計にするなど、溜め込まないための工夫も随所に施しています。

5号機の大型ガスタービン(出典:関西電力)

実施した安全対策に関して中田氏は、「プラントメーカーやガス取り扱いの専門家の知見を取り入れながら、何重もの安全対策を講じました。実証期間中、結果として火災や事故といったトラブルは皆無でした。これまで天然ガス火力を運用してきた我々にとっても、水素を安全にハンドリングできるという自信と実績につながりました」と説明します。確立した対策により安全性を証明できたことになります。

NEDOの釘宮プロジェクトマネージャー(左)と関西電力の中田氏(右)。5号ユニットの前で撮影

水素の製造から圧縮、貯蔵、発電までのプロセスを一気通貫で確立

今回の実証試験のもう1つの特徴は、発電所内に水素の製造・貯蔵設備まで設けた点にあります。現時点では、発電に使える大量の水素がパイプラインで供給されるようなインフラは整っていません。そのため、関西電力は自ら水電解装置を設置して水素を製造し、それを圧縮・貯蔵してガスタービンに送るという、いわば「ミニサプライチェーン」を敷地内で完結させる必要がありました。

水素供給から発電までの全体プロセス(出典:関西電力)

自ら水素を製造する設備を建設した意義について、関西電力の中田氏は次のように語ります。「実証試験で使う約48万kWの出力を有する巨大な発電設備に対して、製造・貯蔵できる水素の量は限られていました。体積比30%の水素混焼でフル運転すれば、貯めた水素はわずか1時間半程度で使い切ってしまいます。そのため、限られた水素をいかに効率的に使い、必要なデータを取得するかという実証計画の立案には苦心しました。しかし、水素の製造から圧縮、貯蔵、そして発電利用までの一連のプロセスを自社で運用した経験は、将来の本格導入に向けた大きな財産となりました」。

水素供給エリア全体図(上)と、水素発電の各設備(下)。ここで製造した水素を5号ユニット(発電設備)のガスタービンに送り込む(エリア全体図の出典:関西電力)

「使う側」の準備は完了! 待たれる“大規模な水素サプライチェーン”

姫路第二発電所での実証試験を通じて、既存の大型ガスタービンを用いた水素混焼発電は、技術的に「レディ(準備完了)」の状態に到達しました。5号機で得られた知見は、同発電所の他のガスタービン、さらには国内の他の天然ガス火力発電所にも展開可能な汎用性の高いものです。

では、明日からすぐに水素発電が普及するのかと言えば、そこにはまだ大きな課題が横たわっています。それは「水素の供給体制」です。

釘宮プロジェクトマネージャーは、「今回の実証で痛感したのは、発電所がいかに巨大な水素需要家であるかということです。実証用の高圧ガスボンベでは数時間で枯渇してしまう量も、商用運転となれば、絶え間なく大量の水素を供給し続けなければなりません。現状の高圧ガスボンベや小規模な製造装置では到底賄えず、液化水素運搬船による海外からの大量輸送や、パイプライン網の整備といった大規模な水素サプライチェーンの構築が不可欠です」と説明します。

水素社会の実現は、「鶏と卵」の関係に例えられることがあります。「使う場所」すなわち需要側がないから、「作る仕組み」と「運ぶ仕組み」すなわち供給側が整備されず、「作る仕組み」と「運ぶ仕組み」がないから「使う場所」が増えないというジレンマです。しかし、今回の実証試験によって、発電という巨大な需要側の技術的準備が整ったことが示されました。

釘宮プロジェクトマネージャーはさらに続けます。「発電側から『いつでも水素を受け入れられますよ』というメッセージを発信できたことは非常に大きいです。これにより、供給側のインフラ整備や投資判断も加速することが期待されます。神奈川県の川崎エリアで先行している液化水素受入基地の構想などが、関西エリアを含めた次の展開へとつながっていくことを願っています」と期待は高まります。

関西電力は「ゼロカーボンビジョン2050」を掲げ、2030年頃の水素混焼の事業化、そして2050年までの水素専焼化を目指すロードマップを描いています。世界情勢を見れば、エネルギー安全保障の観点から化石燃料への回帰が見られる局面もありますが、長期的な脱炭素の流れは変わりません。その中で、CO2を出さない水素発電は、再エネの変動を補う調整電源として、極めて重要な役割を担うことになります。

こうした環境を踏まえて中田氏は、「もちろん、水素の価格や調達量といった経済性の課題は残っています。しかし、まずは技術を確立し、いつでも走り出せる状態にしておくことが、将来のエネルギーセキュリティと脱炭素化の両立に不可欠です。我々は“挑戦”を大切にする価値観の1つとしており、今回の成果を足掛かりに、水素社会の実現に向けて着実に歩みを進めていきます」と、意欲を示します。

将来に向けたロードマップを常に語り合っているNEDOの釘宮プロジェクトマネージャー(左)と関西電力の中田氏(右)

2025年4月から10月まで開催された大阪・関西万博。この未来社会の実験場に向けて、関西電力は今回の実証試験で発電した「水素由来の電気」を実際に供給しました。会場内のパビリオンや施設で使われた電気の一部は、姫路第二発電所で燃焼した水素エネルギーから生まれたものです。中型から大型のガスタービンでの混焼に計画を切り替えてからわずか2年で実証することができたのです。

大阪・関西万博のEXPOホール「シャインハット」の壁面にプロジェクションマッピングで投影した画像(左)と1970年の大阪万博に関西電力の美浜発電所から原子力による電気が送電されたことを示す電子掲示板(右)(出典:関西電力)

NEDOの釘宮プロジェクトマネージャーは、「50年以上前(1970年)の大阪万博では、原子力の灯が会場に届けられ、新しいエネルギー時代の幕開けを象徴する出来事として語り継がれました。今回は水素発電という新たなエネルギー技術をアピールすることができたと考えています」と、実証の成果を評価します。

関西電力の中田氏は、「あの時と同じように、今回の万博が次なるエネルギー社会への転換点として記憶されるよう、我々は発信を続けていきたいと思っています」と、将来へ向けた思いを語ります。

姫路の地で灯った水素の炎は、まだ小さな一歩かもしれません。しかし、それは確実に次世代のエネルギーシステムを照らす、大きな希望の光となっています。サプライチェーン全体がつながり、安価で大量の水素が届く日が来れば、日本の火力発電所は「CO2排出源」から「脱炭素電源」へと生まれ変わる可能性があります。その準備は着々と進んでいます。