
市況と関税の影響はあるものの、世界的に自動車の電動化の動きは着実に進んでいます。
日本の基幹産業の一つである自動車産業の脱炭素化を進め、かつ競争力を維持・強化するため、NEDO はグリーンイノベーション(GI)基金事業の「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトにおいて、自動車の電動化を支える企業と一緒になって、車載用蓄電池やモーターの基盤技術開発、さらに蓄電池需要の急増による希少資源調達リスクの低減に向けて蓄電池のリサイクル関連技術の開発に取り組んでいます。
2025 年 11 月 19~21 日に行われた「BATTERY JAPAN【関西】」では、「グリーンイノベーション基金事業/蓄電池リサイクル事業の進捗と今後の課題」と題したセッションにおいて、プロジェクトの中でも蓄電池のリサイクル関連技術について、GI 基金事業のプロジェクトに参画する企業が語り合いました。
リサイクル全体のサプライチェーン構築がカギ
GI基金事業での本テーマの取り組みは2022年度から始まり、今年で4年目になります。目標として掲げるのは、「リチウムイオン蓄電池から、低コストかつCO2を極力排出しない方法を用いて、再利用可能な高品質で、リチウム70%、ニッケル95%、コバルト95%以上を回収する技術」を開発すること。「研究室レベルではこの目標をクリアし、中規模実証のフェーズへと取り組みを進めています」とNEDOの東野龍也プロジェクトマネージャー(自動車・蓄電池部車載蓄電池ユニット次世代蓄電池チーム チーム長)は語ります。

NEDOの東野龍也プロジェクトマネージャー(自動車・蓄電池部車載蓄電池ユニット次世代蓄電池チーム チーム長)
東野プロジェクトマネージャーは社会実装に向けては五つの課題を挙げました。
- リサイクル対象品を決める(車載電池、電極工程端材料、ブラックマス等)
- 商品の姿を決める(回収レアメタル(金属塩)、高品質ブラックマス、再生正極材、セル)
- リサイクル材への要求品質の見極め
- 需要と市場規模(どれだけ車載廃LIBが国内市場に出回るか)の見極め
- 各国の関連法規・規則の動向見極め(義務化されるのか+バージン材との関係)
一連のリサイクルスキーム課題の解決にむけ、「NEDOも主体的に、国内各地域との連携を図り始めています」と東野プロジェクトマネージャーは決意を新たにします。本蓄電池リサイクルスキームの構築を行うことが、国内電池産業のさらなる強化に繋がると確信しているため、その一貫として、リサイクル全体のサプライチェーン構築がカギとなるとみています。そのサプライチェーンを構築するためには、国内外問わず、OEM・電池メーカ、商社、解体・廃品回収事業者等多くの業界との連携が必要なため、まずは多くの人に課題を知ってもらうことが必要と話しています。
回収率向上と低コスト化の両立を狙う
続いて登壇したJX金属サーキュラーソリューションズの代表取締役社長の安田豊氏は、車載用リチウムイオン電池のクローズドループリサイクルの現状と課題を紹介しました。クローズドループリサイクルとは、廃棄蓄電池から原料を取り出し再生したうえで、新しい蓄電池部材に使用する、車載用蓄電池の世界で閉じた循環を指します。

JX金属サーキュラーソリューションズの代表取締役社長の安田豊氏
同社は、2009年からこの取り組みを進めています。近年は規制強化による高い回収率が要求されることと、コストを掛け過ぎると需要を失ってしまうことから、GI基金事業でも、「回収率アップとコスト低減を両立する開発を行っています」と安田氏は語ります。
具体的には、「前処理技術の最適化」と「金属回収技術の高度化」の二つに取り組んでいます。前処理技術とは、廃電池セルから希少金属が含まれた正極材をブラックマスと呼ばれる電池粉として取り出す工程を指します。開発した前処理技術は、廃電池セルを放電した後、不活性雰囲気下で破砕し、低温真空乾燥で電解液を回収。続いて、ふるい分けにより高純度のブラックマスを選別回収します。従来のように熱処理に頼らないので、低コストかつ環境負荷を抑えられるのが特徴です。

JX金属サーキュラーソリューションズが開発中の水酸化リチウムを利用した金属回収技術の原理(出典:JX金属サーキュラーソリューションズ)
ブラックマスから金属を回収する技術には、水溶液中の化学反応による分離で金属を回収する湿式処理を使用します。湿式処理には水素イオン濃度(pH)の調整が必要ですが、この調整に回収リチウム由来の水酸化リチウムを使うことで、従来の水酸化ナトリウムを代替します。その結果、不純物低減と高純度化が進み、実験レベルではリチウム回収率90%を達成しました。「これらのプロセスは敦賀の施設において、2027年4月から量産に向けた検証を行う予定です」と安田氏は、具体的なスケジュールを明らかにしました。
正極材を直接再生する新しい循環モデル
住友化学のICT&モビリティソリューション部門理事の新健二氏からは、正極材のリサイクル方式の一つであるダイレクトリサイクル、さらにはアップサイクルについて、同社の開発の状況が説明されました。ダイレクトリサイクルは、ブラックマスを利用するという点では、JX金属サーキュラーソリューションズが進める湿式や、熱処理を利用する乾式と違いはありません。これらの方式と違うのは、リサイクル後に金属原料を取り出すのではなく、正極材として再生して利用することです。

住友化学のICT&モビリティソリューション部門理事の新健二氏

住友化学が開発中のダイレクトリサイクルによる処理イメージ(出典:住友化学)
ブラックマスにはバインダーとして使われるPVdF(ポリフッ化ビニリデン)や、カーボンなどが含まれています。正極材の再活性化を阻害するため、まずこれらを取り除きます。正極材は、長い間、使用されているので劣化しています。これを可能な限り元に戻すために、必要となる成分を添加したうえで熱処理を施し、正極材の粒子構造や結晶構造、化学組成を整えて再活性化します。例えば、初期容量の8割程度まで劣化したブラックマスを利用した検証では、ほぼ初期の性能まで戻せることを確認しています。「金属に戻す方法と比較すると、複雑な処理の多くを『中抜き』できます。このため処理コストやカーボンフットプリントなどの低減に貢献します」と新氏は語ります。
さらに住友化学では、ダイレクトリサイクルに加えてアップサイクルに関しても研究を進めています。アップサイクルは、もとの材質に戻すだけでなく、それ以上の性能に引き上げることを目指すもの。現在の開発では、NMC622(Ni、Mn、Coの比率が6:2:2)の正極材を、ニッケルの比率を高めたNMC811(同8:1:1)に再生できることを確認しています。
同手法にも、課題がないわけではありません。「元に戻すのには限度があります。粒子に大きな割れなどが発生していると再生するのは難しいです。また、限りなく性能を高めようとするとコストがかかります。性能とコストのバランスを見極めなくてはなりません」と、新氏は話しました。
パルス放電を利用してCO2削減と高純度化を達成
JERAのO&M・エンジニアリング戦略統括部技術経営戦略部長の尾崎亮一氏は、高電圧パルス放電を利用したブラックマス生成技術について説明しました。従来は、焙焼を含む工程で廃電池からブラックマスを取り出すのが一般的です。ただし、エネルギー消費とCO2排出が大きく、正極材の劣化や不純物量も課題でした。「私たちの研究では、CO2排出の削減と希少金属の回収率向上をメインの目的として行っています」と、尾崎氏は開発の目的について語ります。

JERAのO&M・エンジニアリング戦略統括部 技術経営戦略部長の尾崎 亮一氏
通常のブラックマスは正極材に加え負極材や銅、アルミ、樹脂といった不純物が含まれます。一方JERAの方式では、高電圧パルスの放電を利用して正極材のみの高純度なブラックマスを回収できます。電池セルでは、正極材は集電帯であるアルミシートとバインダーを介して密着した状態で収納されています。一般的なリサイクル方式では、焙焼によりバインダーを揮発させ、機械的な粉砕で正極材を剥離するなどの工程を経ます。このためCO2の排出が著しく、材料も劣化します。この課題を、高電圧パルスによる放電を利用することで解決します。

JERAの高電圧パルスを利用したブラックマス回収技術と住友化学のダイレクトリサイクルを組み合わせた循環イメージ(出典:JERA)
高電圧パルスによる強力な放電が、正極材とアルミシートをつなぐバインダーに衝撃を与えて剥離させます。水溶液中でシートを揺らせば、剥離した正極材が容易に回収できます。「CO2の排出量を20%削減できるメドがついています。また、希少金属の回収量もリチウムで80%以上、ニッケル、コバルトで95%以上が達成できる予定です」と、尾崎氏は最新の研究成果を明らかにしました。
GI基金事業においては、JERAと住友化学は共同で研究開発を行っています。JERAの手法でブラックマスを回収し、住友化学がダイレクトリサイクルで正極材に再生する流れです。両社の技術を組み合わせることで、低コストかつ環境負荷の少ない新しいリサイクルプロセスが実現できます。
社会実装に不可欠なサプライチェーンと人材
セッションの最後には、東野プロジェクトマネージャーの進行でパネルディスカッションを行いました。最初のテーマは社会実装を目指すうえでの課題です。まず安田氏は、EV普及の遅れを鑑みたうえで「リサイクル技術の優劣の話題が先行している感もあるが、まずは電池を集める社会システムを国として確立すべき」とリサイクル技術へのインプット側の課題を強調しました。新氏も、賛同したうえで、住友化学のダイレクトリサイクルはあまりに粒子の損傷が激しいと再生しにくいといった弱点があるため、インプットの状態に応じたリサイクル技術の使い分けが理想だと意見を述べました。尾崎氏も、サプライチェーン構築には国の関与が不可欠とし、「エネルギー事業者として必要な提案をしていきたい」と、自社の役割について言及しました。
続く議題は、人材の獲得と育成です。安田氏は、採用自体は順調とするものの、「事業化を進め魅力ある業界にしなければ定着は難しい」と指摘しました。それを受けて新氏は、学生の目線の厳しさに触れ、「将来の収益性を明確に示せなければ学生は納得しません。収益が見込めるから研究しておくべきであると、伝えられることが重要です」と、力説しました。尾崎氏は、「リサイクルのサプライチェーンには、あらゆる専門人材が必要となります」と語りました。さらにCO2削減の“見える化”にはITの力も欠かせないとし、ソフトとハードが融合する魅力ある業種に育てる必要性を指摘しました。

左から、JX金属サーキュラーソリューションズの安田豊代表取締役社長、NEDOの東野龍也プロジェクトマネージャー、JERAの尾崎亮一技術経営戦略部長、住友化学の新健二理事
技術開発が順調に進んでいることから、今後の予定について東野プロジェクトマネージャーは「これからはスケールアップしていくフェーズです。実際に中規模実証施設やパイロットラインを構築し、検証していきます」と語ります。今回のセッションでは、日本の蓄電池リサイクル研究が順調に進んでいる一方で、電池回収など課題が残っていることも明らかになりました。海外地域においてリサイクル成功の報道もありますが、実際には金属回収率や品質が懸念されています。今後、欧州などの厳しい規制を満たすには、日本の技術開発が不可欠です。NEDOはGI基金事業を通じて、この取り組みを引き続き支援していきます。

