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2025.10.09
グリーン電力の普及促進等分野インタビュー

フィルム型ペロブスカイト太陽電池が社会実装へ ロール・ツー・ロール製法は30cm幅から1m幅へ進化

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大阪・関西万博の西ゲートにある250mにも及ぶバスターミナルの屋根には、フィルム型ペロブスカイト太陽電池が設置されています。世界最大規模で実装されたこの太陽電池は、NEDOの「グリーンイノベーション(GI)基金事業/次世代型太陽電池の開発」プロジェクトの成果で、「ロール・ツー・ロール(R2R)」という製法を使い、生産性の向上とコストの削減にも挑戦しています。

大阪・関西万博の西ゲート・バスターミナルの屋根に設置されているフィルム型ペロブスカイト太陽電池
左上:大屋根リングから撮影した長さ250mの設備の全容
右上:屋根の上で湾曲した形で実装した姿
下 :フィルム状で曲がる太陽電池であることがわかる

ペロブスカイト太陽電池は軽量かつフレキシブルであるため、湾曲した場所や耐荷重性が低い構造物にも設置でき、従来からある結晶シリコン太陽電池の導入が難しかった体育館や工場の屋根、都市部の建物等にも利用可能であることを実証する象徴的な取り組みとなっています。

期待は日々高まっており、開発した積水化学工業では、本社ビルや万博会場のほか、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)や内幸町サウスタワー(東京都千代田区)など、多くの場所で実証試験を手掛け、実用化へ向けて性能評価と改善を行っています。

今回開発したフィルム型ペロブスカイト太陽電池は幅30cmのものですが、積水化学工業はGI基金事業で、この発電効率と耐久性を高めるテーマと、さらに1m幅にスケールアップするテーマに取り組んでいます。

多くの実証試験を通じて耐久性の課題を克服

ペロブスカイト太陽電池は従来の結晶シリコン太陽電池に比べて発電効率が高いものの、耐久性が低い点が課題として指摘されています。一般的に知られている水分以外では、特に光と熱による劣化が問題となります。光だけ、または熱だけの耐久性試験では結晶シリコン太陽電池と同様に効率を維持できていますが、光と熱を同時に受ける環境下では効率が落ちるケースが見られます。実際の使用環境では光が当たって温まるため、この光と熱の複合環境下での耐久性維持が非常に重要です。

ペロブスカイト太陽電池の場合は、「この劣化モデル自体が分かっていません。現在のところ、光熱複合環境における長期的なデータが不足しており、積水化学工業だけでなく、国内外の研究機関と連携してデータ収集と解析を進め、信頼性の高いデータを確立することが課題です」とNEDO再生可能エネルギー部 太陽光発電ユニット 太陽光発電チームの松原浩司プロジェクトマネージャーは説明します。

NEDOの松原浩司プロジェクトマネージャー(再生可能エネルギー部 太陽光発電ユニット 太陽光発電チーム 上席主幹)

こうした課題を踏まえた上で、積水化学工業の森田健晴氏は、耐久性について一連の実証試験の結果から次のように説明しています。

「東京国際クルーズターミナルでの実証試験では、発電効率の劣化が見られないという顕著な成果が得られています。東京都も、沿岸部における一定の耐久性や耐候性が確認できたと述べており、これはペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた大きな一歩と言えるでしょう。耐久性については、現在行われている加速試験の結果から、10年相当の耐久性が見込まれています。実際の設置環境でのデータと加速試験の結果を照合して規格作りも進めており、2026年度中に立命館大学やKISTEC(神奈川県立産業技術総合研究所)の協力のもと、劣化モード(耐湿性、耐熱性、耐光性など)ごとに評価を進めることを目指しています」。

フィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発を指揮する積水化学工業PVプロジェクト副ヘッド兼積水ソーラーフィルム取締役 技術・開発部長の森田健晴氏

さらに、ペロブスカイト太陽電池の耐久性評価に関する国際的な基準が未確立であることが課題だとして、「まずは国内で基準を整備し、実績を重ねることで、将来的な国際基準策定において日本が主導権を握ることを目指しています」と意欲を示しています。

一方、森田氏が最も懸念しているのは、性能の低い製品が出回ることで、ペロブスカイト太陽電池全体の評価が低下してしまうことです。そのため、「徹底した品質管理のもと、信頼性の高い製品を提供することが重要」と指摘します。

東京国際クルーズターミナルでの実証試験では、設置方法についても検証が進められました。海風に対する設置安定性などが課題として挙げられましたが、これらは現場での対応を通じて改善が進められています。森田氏は、「課題の発生をネガティブにとらえておらず、むしろ課題を解決することで、より良い製品開発につながる」と考えを示しています。

ビルへの設置に関しては、現在、東京電力ホールディングスと共同でGI基金事業の実証事業において内幸町サウスタワーのスパンドレル部に設置するために協議・検討が進められています。
積水化学工業は、GI基金事業では技術的なテスト実証や社会実装に向けた展開を担当しており、万博での実証はこれまでの成果の披露の場、ビルへの設置は社会実装に向けた展開の一環と位置づけています。

防火区画に接する外壁を指す。外気を介して区画の内側から外側へ炎が回り込むことを防ぐ。

フィルムのロール・ツー・ロール(R2R)で量産化に挑戦

ペロブスカイト太陽電池の競争力について、有機系太陽電池と比較して変換効率のポテンシャルが高い点や、結晶シリコン太陽電池と比較して軽量でフレキシブルな点がポイントとして挙げられます。これに加えて、生産性が高まればコスト競争力の点でも優位になります。

量産化を見据えた場合、1枚ずつ製造する枚葉方式よりも、シート状のフィルムをローラーで送り、加工したのち再びローラーで巻き取るR2R製法だと生産性を向上させることができます。積水化学工業では、既存のフィルム関連技術を生かせるという点でフィルム型を採用しました。しかし、R2R製造技術はまだ確立された技術とは言えず、過去に多くの企業が挑戦してきたものの、量産化に成功した例は少ないのが現状です。

R2R製法での製造工程は、発電層の形成、電極の形成、加工の3つの工程で構成されています。特に発電層の形成では、ペロブスカイト材料を塗布し、乾燥させる工程を装置化しました。

発電層を形成する装置の外観(積水化学工業の開発研究所にて撮影)
このほかに電極を付けるR2R製造装置、加工のためのR2R製造装置がある
R2Rによるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の製造風景(積水化学工業の開発研究所にて撮影)
フィルムの幅は30cmでロールの長さは数百m。2~3m/分の速度でフィルムを送り、5~6分かけて塗布、乾燥させる。

30cm幅のR2R製造技術を確立する上で最も苦労した点について、森田氏は「課題は均一に塗布することでした。均一な塗布ができていないと、加工も均一に行うことができません。また、ペロブスカイト材料が湿度に非常に弱いため、製造環境の厳密な管理が不可欠です」と説明します。

フィルム幅30cmから1mへ、塗布技術の精度向上を促進

30cm幅から1m幅にスケールアップする上での課題もやはり均一性です。「最大の課題は1m幅に広がっても均一性を維持することです。装置の大型化に伴う振動や空気の流れなどの影響も考慮しなければなりません。メーター幅のR2R製造装置の開発は、GI基金事業のフェーズⅡにおいて、2025年度中の目標として進めています」と森田氏は説明します。

開発したフィルム幅1mのR2R製造装置(出典:積水化学工業)

1m幅にスケールアップする際の技術的課題について、NEDOの松原浩司プロジェクトマネージャーは、「30cm幅以上に均一性の確保と高速での製造が大きな課題となります。30cm幅と比較して1m幅では約3倍になるため、単純にレーザー加工の工程でレーザーを3倍にするだけではコストが見合わない可能性もあります」と、高い難易度を克服するだけでなく経済性を両立させることの重要性を指摘します。

社会実装へ向けてトータルコストを低減へ

積水化学工業では2027年に第1生産ラインで100MWの生産能力を確立する計画です。さらに、2030年までにGW級の生産ラインの構築を目指しています。

社会実装に向けて、発電効率や耐久性を高めると共に量産体制を確立することは重要ですが、社会実装へ向けて、森田氏は「モジュール単体の価格だけでなく、取り付け費用、メンテナンス費用、廃棄費用など、トータルのコストで競争力を判断する必要がある」と指摘します。「施工が容易であれば人件費を削減でき、メンテナンスが容易であれば長期的なコストを削減できます。特にビルの外壁に設置する場合、30年後に足場を組んで交換するような事態は避けたい。工事費が非常に高くつき、太陽電池の値段は誤差になります。また、施工技術の確立に加え、建築規制や消防規制など、様々な規制の見直しも必要です」と森田氏は詳述します。

積水化学工業の世界での立ち位置について、NEDOの松原浩司プロジェクトマネージャーは「積水化学工業が世界トップレベルであるといえます。フィルム型ペロブスカイト太陽電池について、海外では、欧州の会社が小さい製品を作っていますが、大々的に事業化しようという点で積水化学工業がリードしています。中国は、フィルムでの研究も進めてはいますが、事業化の中心はガラスです」と説明します。

積水化学工業のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発は、性能、製造技術の両面で世界的にも類を見ない取り組みであり、今後の世界の太陽電池市場をけん引し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していくでしょう。