
2050年のカーボンニュートラル社会実現に向け、NEDOは重要技術の一つとして、再エネ電力等から製造した水素と発電所等から回収したCO2を基にして、効率的にメタンを合成するメタネーション技術の開発を進めています。CO2を「原料」として使い、都市ガスの主成分のメタンを合成しようというものです。社会実装に向けて、この取り組みが大きく前進しています。
NEDOが進める「グリーンイノベーション(GI)基金事業/CO2等を用いた燃料製造技術開発」プロジェクトの参画企業である大阪ガスは2025年6月、世界最大規模となるSOEC(固体酸化物形電解セル)メタネーションのベンチスケール試験施設を完成させました。ベンチスケールとは、工場レベルに発展させるための各種検証を実施する段階を指します。SOECメタネーションの設備としては世界最大規模であり、稼働以降、合成メタンの製造実験を重ね、社会実装に向けたノウハウを着実に積み上げています。


上側が、室内に設置したSOEC電解セル装置とその関連設備で、水(水蒸気)を電気分解して水素を作る。下側が、SOEC電解セル装置で生成した水素にCO2を反応させてメタンを合成するメタネーション設備(屋外に設置)で、大阪ガスが独自に開発したメタネーション触媒を採用した。これらの設備は、大阪市此花区酉島にある大阪ガスのDIC(Daigasu Innovation Center)の敷地内に設置されている。
「逆転の発想」から生まれた、世界最高効率への挑戦
そもそも“メタネーション”とは、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させてメタン(CH4)を製造する技術です。この方法かつ再生可能エネルギー電力由来の水素(グリーン水素)を利用して製造されたメタンは、一般的にe-メタンと呼ばれています。既存の都市ガスの導管やガス機器をそのまま利用できるため、社会コストを抑えながら脱炭素化を図るカーボンリサイクルの重要な技術の一つとして期待されています。さらに、e-メタンの製造工程でSOECメタネーションを採用すれば水素を外部から調達する必要がなくなり、水とCO2から一気通貫でe-メタンを製造することができます。

SOECメタネーション技術の概要(出典:大阪ガス、2025年6月3日付プレスリリース)
メタネーションはCO2を都市ガスの原料に有効利用できる画期的な技術ではあるものの、電力コストがかさんでしまうという課題があります。水素を作るための水電解には、大量の電力が必要となることが理由です。このため、いかに少ない電力でメタンを作るかが重要になります。そこで白羽の矢が立ったのが、大阪ガスが開発を進めてきたSOECを用いたメタネーション技術です。電力からメタンへのエネルギー変換効率は、従来技術の55〜60%に対し、SOECメタネーション技術では85〜90%を狙えます。
大阪ガスのエグゼクティブフェローで先端技術研究所SOECメタネーション開発室 統括室長の大西久男氏は、この技術の核心について次のように語ります。「SOECメタネーションの最大の特徴は、排熱の有効利用にあります。従来のメタネーションでは、メタンを合成する際に発生する熱は棄てられていました。電気分解は温度が高いほど、少ない電力で反応を進められます。SOECは約700~800℃の高温で働くため、水分解に必要な電力を他方式に比べて抑えることができます。一方、SOECで水を電気分解するには、水を水蒸気にするための熱エネルギーが別途必要になります。そこで、メタン合成で発生する熱を、SOECに必要な水蒸気の生成に回すのです。これにより、外部から熱を持ってくる必要がなくなり、投入した電力を極めて効率的にメタンというエネルギーに変換できます」と、大西氏は要点を明かします。

大阪ガスのエグゼクティブフェローで先端技術研究所SOECメタネーション開発室 統括室長の大西久男氏
この画期的なシステムが生まれた背景には、「逆転の発想」がありました。大西氏はかつて、都市ガスから水素を取り出して発電する「SOFC(固体酸化物形燃料電池)」の研究を手掛けていました。SOFCは発電時に発熱し、改質反応(メタンから水素を作る反応)では吸熱します。「これを逆に回してみたらどうなるか、と思ったのです。SOFCの発電効率が約55%だったのに対し、逆回転させて電気からメタンを作ると、計算上は90%近い変換効率が導き出されました。当初は周囲から計算間違いではないかと言われましたが、後に産業技術総合研究所でも同様の研究が進んでいることを知り、確信に変わりました」と、大西氏は明かします。
NEDOでCO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めている、サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル化学品・燃料チーム 主幹の定兼修プロジェクトマネージャーは、「SOECは理論上、使用電力量を最も少なく済ませられる可能性があり、世界的にも注目されている技術です。SOECとメタネーションを組み合わせることで、世界最高効率のプロセスを実現できるはずです」と大きな期待を寄せています。

NEDOの定兼修プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル化学品・燃料チーム 主幹)
日本独自の事情と「技術自給率」という安全保障
世界を見渡すと、脱炭素燃料へのアプローチは国によって異なります。欧州などでは既存のガス導管に水素をそのまま混ぜて供給する手法も検討されていますが、日本では事情が異なります。大西氏は、「日本の都市ガスは、海外から輸入したLNG(液化天然ガス)をベースにしており、欧州等で供給されているガスに比べるとCO2や窒素などの不純物が極めて少ない高熱量ガスが供給されています。ここに水素を混ぜても脱炭素効果は限定的である一方、熱量が下がってしまう影響が大きいため、お客様のガス機器を調整・交換する必要が生じてしまいます」と、欧州などでの考え方は日本にそぐわないと指摘します。メタネーションによってメタンそのものを合成すれば、既存のガスインフラだけでなくユーザーのガス機器をそのまま活用でき、日本に適した取り組みというわけです。そうした背景があり、メタネーションへの熱意は「日本が世界の中でも突出しています」と、大西氏はガス会社ならではの視点で説明します。
NEDOの定兼プロジェクトマネージャーは、GI基金事業で進めている別の電解技術であるPEM(固体高分子膜)水電解との使い分けについても言及します。「PEMは低温(80℃程度)で運転できるため起動停止がしやすく、出力変動の大きい太陽光などの再生可能エネルギー電力との相性が良いといわれています。一方、SOECは700℃程度の高温で運転するため熱管理が重要ですが、安定的に高いエネルギー変換効率で稼働させることに優れています。用途に合わせた使い分けが必要であり、NEDOとして両方の技術が重要だと考えて支援しています」と説明します。
さらに、このプロジェクトにはエネルギー安全保障や経済安全保障という重要な側面があります。将来的に安価な再生可能エネルギー電力を求めて海外で製造したメタンを輸入することになったとしても、その製造技術まで海外に依存してよいのか、という疑問です。 大西氏は、「資源自給率だけでなく、“技術自給率”も重要です。海外の再エネ資源を活用するにしても、日本の技術を使って、世界で最も安いコストでメタンを製造できれば、日本のエネルギー安全保障に貢献できます。また、世界的なLNG需要の中で、カーボンニュートラルなメタンを供給できる技術を持つことは、将来の主導権確保にもつながります」 と、力を込めて語ります。定兼プロジェクトマネージャーも、「安全保障上、エネルギーを国内で作ることができる技術をいかにして育てるかというのが国の命題になっています。そういう意味でSOECメタネーションは非常に重要な技術です」と、口を揃えます。

NEDOの定兼プロジェクトマネージャー(左)と大阪ガスの大西氏(右)
スモールスタートから世界最大規模へ短期間でスケールアップ
SOECメタネーションで合成メタンを得る製造設備は、ここ数年で大きく規模を拡大しています。今回稼働したベンチスケール設備は、一般家庭2戸分のエネルギーを賄える規模だった研究室レベル(ラボスケール)の従来設備から、約100倍の200戸を賄える規模へと一気にスケールアップしたものです。大西氏は「2021年頃、実際にSOECとメタン化反応を組み合わせてメタンを作ってみた当初は、合成したメタンは微量で、蛍が放つ光のようなわずかな火が灯る程度でした。それでも『できた!』とチーム全員で喜び合ったのを覚えています。そこから2024年度、ようやく一般家庭2戸分のガスが製造できるラボ装置ができ、今回のグリーンイノベーション基金事業で一気にベンチスケールへと拡大しました」と、着実に量産規模への道筋が見えてきていることを強調します。
このスケールアップには、装置を大きくする以上の意味があります。 「SOECとメタン化反応を一気通貫のシステムで試みる例として、今回の設備は世界最大規模といえます。700℃という高温で運転するSOECは、大型化が難しいのではないかという懸念もありました。今回の稼働は、高効率なプロセスが机上の空論ではなく、実際のエンジニアリングとして成立することを示す重要なマイルストーンです」(大西氏)。
稼働させた設備では主に2つの技術課題の検証を進めています。1つは「熱の制御」です。メタン合成反応器は大型化するほど内部に熱がこもりやすくなりますが、反応効率を維持するためには適切な温度管理が不可欠です。そのため、大型化を見据えた除熱や温度調整の仕組みを徹底的に検証しています。もう1つは「均一性」です。多数の電解セルを積層し、さらにそれを集積して大規模なシステムを組む際、原料となる水蒸気や電力をいかに全てのセルへ均一に行き渡らせるか。これらは性能を左右する重要なノウハウとなります。
大西氏は、「この設備を構成している電解セルの集積体を、ブロックのように複数集合させることで、将来の巨大な商用プラントを構成する際の最小単位(基本形)を形成できると考えています。ここでコア技術を確立し、それを複数組み合わせることで、将来の大規模化を実現する計画です」と、説明します。
“先行技術”と“先進技術”を並行して開発し2050年へ
今後の技術開発では、さらに先の展開を見据えています。現在稼働しているのは、水を電気分解して水素を作り、その水素とCO2を反応させる「水蒸気電解」という方式です。これに対し、水蒸気とCO2を同時に電気分解する「共電解」という、より難易度の高い技術開発も並行して進めています。
定兼プロジェクトマネージャーはこう解説します。「水蒸気電解の方が技術的には先行しています。まずはこれでスケールアップのノウハウを蓄積します。一方、共電解は電極反応が複雑ですが、究極の効率を目指せる技術です。先行する水蒸気電解の知見を共電解にも応用しながら、開発スピードを加速させていきます」。
大西氏は、「水蒸気電解は“先行技術”、共電解は“先進技術”と位置づけています。実は、現在のベンチスケール設備の敷地には、将来的に共電解装置を設置するためのスペースを空けてあります。数年後にはそこにも設備が立ち並び、また違った景色になっているはずです。将来的には、運転条件や用途に合わせて両方の技術を選択肢として持っておくことが、事業の柔軟性につながると考えています」と明かします。
このプロジェクトでは、研究開発のフェーズを「ホップ・ステップ・ジャンプ」に例えています。 定兼プロジェクトマネージャーは、「今回のベンチスケール設備はステップの段階です。次は工場規模のジャンプ、つまりパイロットプラントへの挑戦が待っています。理論的に可能なことを実証し、段階的にスケールアップしていくという研究開発の王道を、着実に、そして世界に先駆けて進めていきたい」と力を込めます。
大西氏は、「この設備はあくまで通過点です。2050年のカーボンニュートラル時代に向け、国内での活用はもちろん、海外の再エネ適地での大規模生産も見据え、日本発の技術で世界のエネルギー産業をリードできるよう開発を加速させます」と野心を語ります。

定兼プロジェクトマネージャーと大阪ガスの大西氏(大阪ガスが取り組んでいる先端技術を紹介するDICのエントランス・ギャラリー前にて)
本事業では、2028年度~2030年度にパイロットスケール試験を実施し、2030年度に世界最高レベルのエネルギー変換効率(約85~90%)を実現するe-メタン製造技術を確立する計画です。その後、大阪ガスは、将来的には2031年度以降の実証フェーズを経て、2030年代後半から2040年頃の実用化を目指しています。
資源の乏しい日本にとって、SOECメタネーションはエネルギーのあり方を根本から変える可能性を秘めています。

GI基金事業によるSOECメタネーション技術開発の内容・スケジュール、2031年度以降の実証・社会実装のイメージ(出典:大阪ガス、2025年6月3日付プレスリリース)
