人と人がつながり、生活が営まれる場所「街」。私たちの日常の物語の舞台である街にカーボンニュートラル化が求められています。街のカーボンニュートラル化は、2つの段階に分けて考えることができます。1つは街を形成していく段階で、もう1つは街で活動していく段階です。
街を形成していく段階の代表例が、道路や土木構造物、建築物などの建設プロセスです。街の景観、多くはコンクリート構造物によって支えられています。コンクリート、その構成材となるセメントがカーボンニュートラルに向けて注目されるのは、CO2を固定化する量のポテンシャルが高いからです。また、最近は高層の木造ビルが目立っており、森林の木材活用、CO2の大量・長期固定といった面から木材への期待も集まっています。
街で活動していく段階の代表例が太陽電池の活用です。最近は軽量・柔軟で低コスト化できる可能性を持つ次世代型のペロブスカイト太陽電池に注目が集まり、建築物の屋根や壁面に設置することに期待が高まっています。
NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金事業で取り組む技術開発には、こうした街のカーボンニュートラル化に寄与するものとして、「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」、「食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術の開発」、「次世代型太陽電池の開発」の3つのプロジェクトがあります。これらのプロジェクトが、街づくりのどのような課題を解決し、どのようなメリットをもたらすのか、前半と後半の2回に分けて紹介します。
前半で取り上げる「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」プロジェクトは、社会インフラで広く利用されているコンクリートとその主要構成材料であるセメントにおいて、CO2の排出削減・固定量増大とともに、それに伴うコストの削減を図り、利用を促していくことを目指しています。コンクリートでは、「革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工技術及び品質評価技術の開発」、「CARBON POOLコンクリートの開発と舗装および構造物への実装」、セメントでは「CO2回収型セメント製造プロセスの開発」の各テーマなどが進行しています。

「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」プロジェクトのコンクリート・セメントの全体像
3つのコンクリート技術で多種多用途に対応
「増え続けるCO2をストップさせて、ゼロ以下に減らそう」。このような目標を掲げて計54の企業・大学・研究機関がCUCO(クーコ)の名の下で研究開発を進めています。これが「革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工技術及び品質評価技術の開発」に当たります。
「GI基金事業で取り組む3つのコンクリート技術の開発が次々と街づくりで使われていけば、街のカーボンニュートラル化は進むのではないでしょうか」と、NEDOサーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査の依田和久プロジェクトマネージャーは説明します。これら3つは環境配慮型コンクリートと呼ばれるものです。
1つ目はセメント低減型コンクリートです。セメントの一部または全部を、製鉄の副産物である高炉スラグの微粉末などで置き換え、計算上のCO2排出量を抑えたコンクリートです。2つ目はCO2固定型で、CO2を接触させる「炭酸化養生」によって炭酸化カルシウム(CaCO3)としてCO2を固定するコンクリートです。3つ目がCCU(CO2の回収・利用)材料活用型で、廃棄物由来のCa分にあらかじめCO2を反応させて、炭酸化カルシウムの粉末や骨材を製造し、それらを練り混ぜることでCO2を固定化したコンクリートです。

「革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工技術及び品質評価技術の開発」(CUCO)における研究開発内容 (出典)NEDO「革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工技術及び品質評価技術の開発」の事業戦略ビジョンより
これらの技術を組み合わせて高度化しながら低コスト化を図り、CO2削減・固定量で310~350kg/m3、そのうちCO2固定量が120~200kg/m3となるコンクリートを開発することを目指しています。対象は建築と土木、さらにコンクリートの種類としてはプレキャストと現場打ちをターゲットとしたものです。
「最終的な目的はCO2の吸収・固定量を最大化することです。建設地によっては流通の事情で特定のセメントが届かなかったり、現場打ちが難しかったりします。こうした条件、さらにはコスト面を踏まえて、現地のニーズに合ったコンクリートを提供する形で網羅的に対応できるのがCUCOの特徴です。今はスタート段階なので、対応できる技術レベルで随時対応していく方針です」と、依田プロジェクトマネージャーは説明します。

NEDOの依田和久プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査)
現状の課題はコストです。「開発中の技術を用いると、従来のコンクリートと比較してコストが現段階では数倍かかります。加えて、部材にCO2を吸収・固定するに当たり、工業用のCO2の調達コストも高い。そこで調達コストを下げるため、工業用のCO2よりも濃度の低いガスを利用するほか、地産地消で調達するアプローチも必要だと考えています」と、依田プロジェクトマネージャーは課題解決に向けた方向性を示します。
もう1つ欠かせないのが法規などのレギュレーションへの対応です。建築では、建築基準法で主要構造部に使うコンクリートの品質基準が定められており、通常JIS(日本産業規格)または大臣認定を取得したものでないと構造材料として使用できません。依田プロジェクトマネージャーは「土木の場合は、発注者が採用を決めるうえで実績を重視する課題があります。国土交通省のアクションプランに乗るなど、政府調達で実績をつくるのが採用を増やすための近道となります」と解説します。
建築物ではすでに大阪・関西万博で実績が出ています。環境配慮型コンクリートドーム「CUCO®-SUICOMドーム(クーコスイコムドーム)」です。セメント低減型コンクリートとCO2固定型コンクリートを用いています。さらに、EXPOアリーナの歩道ブロックにもCO2固定型コンクリートを用いています。

大阪・関西万博で会場内の西ゲート広場付近に設置した環境配慮型コンクリートドーム「「CUCO®-SUICOMドーム」」
CUCOとしての技術開発と並行して、CO2の吸収・固定量を評価する手法も開発しています。「CO2の削減量や吸収量をクレジットとして認定するJクレジット制度の活用検討も進行しており、評価手法が出来上がればJクレジット等に反映でき環境配慮型コンクリートの普及が進むと捉えています。ハード技術と評価技術の両方が相まって品質の確からしさを説明することができます」と、依田プロジェクトマネージャーは説明します。
建設産業由来の廃棄物にCO2を固定して生コンに利用
CO2の削減・固定によって地球温暖化の抑制につなげるという目的で、計15の企業・大学・研究機関が開発に参加するCPCC(CARBON POOLコンクリートコンソーシアム)も新技術を開発しています。CPコンクリート(CARBON POOLコンクリート)という名称で、NEDOサーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査の栗本哲夫プロジェクトマネージャーは、「生コン事業や建設業に関わる廃棄物を資源として循環し、CO2を固定する材料として使っていこうというのが1つの大きな特徴です」と説明します。
生コン工場からはセメント成分を含んだ排水(スラッジ水)、その排水を圧搾・脱水した板状のスラッジケーキ、さらには生コン車で運んでも使わず工場に戻ってくる「戻りコン」が発生します。一方、建築や土木の解体現場からはコンクリートガラ(解体の際に発生するコンクリートの破片や塊)が出ます。こうした廃棄物を「CPセンター」と呼ぶ施設に集約します。そこでCO2を固定してCCU(CO2回収・利用)材とし、生コン工場に運び、CPコンクリートを作るという考えです。CPセンターで使うCO2は、ごみ焼却場やバイオマス発電所で発生するものを用いる想定です。

CPセンターを中心とした地域内資源循環のイメージ
(出典)「CARBON POOLコンクリートの開発と舗装および構造物への実装」の事業戦略ビジョンより
生コン工場の通常の設備で製造が可能になることもCPコンクリートの特徴です。「コンソーシアムのメンバーには生コンプラントを運営している会社もいます。生コン事業者には中小企業も多く、地産地消によって過度の設備投資がなくても可能になるように検討しています」と、栗本プロジェクトマネージャーは説明します。
コンクリートが街づくりに必要なことは語るまでもありません。街で活動していく中で出てきてしまう廃棄物をできるだけ利活用して街づくりに貢献していこうというのが本プロジェクトのポイントです。

NEDOの栗本哲夫プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査)
CPコンクリートの数値目標としてCO2の固定量120kg~160kg/m3を目指しています。これは経済産業省が策定している研究開発・社会実装計画を基にしており、その中で、普通ポルトランドセメント(セメントの種類の1つで、もっとも一般的なセメント)を用いた生コンが1m3あたり310㎏排出しているCO2を、ゼロにするよう謳っています。そのうち190kgについてはCO2低減型セメントで削減するものとし、残りを今回の研究開発によって低減する考えです。
廃棄物を活用した材料へのCO2固定については、「安く、早く」がポイントになります。「研究開発・社会実装計画の中にも普通コンクリートと同等のコストでという文言があり、コストを踏まえた検討が欠かせません。例えばCO2を目で見ることができない微細な気泡にして水などに溶かし、効率的な吸着方法で材料にCO2を固定させる方法を検討しています」と、栗本プロジェクトマネージャーは語ります。
今後の社会実装に当たっては、コンソーシアムに舗装事業者がいることから、舗装を最初の柱に据えています。「土木や建築の構造物も想定しており、街づくりという観点では、安全・安心を担保する必要があります。建築で言えば建築基準法、土木であればいろいろな規則や規定を国土交通省や経済産業省が設定しており、そうしたものをどう満足させていくかということも踏まえて検討しています」と、栗本プロジェクトマネージャーはこのように今後を見据えます。
2025年の大阪・関西万博では「未来の都市パビリオン」でベンチや一部の舗装に適用して実証実験を行いました。さらに、同パビリオンのブースへ出展もしました。最終的にブースには30万人以上が来場しています。

CPコンクリートの施工実績。大阪・関西万博「未来の都市」パビリオン内でベンチと一部舗装に使用
(出典)CPコンクリートコンソーシアムのウェブサイトの施工実績
CPセンターを中心とした地域内資源循環に向けて、今後の大きな課題になるのが清掃工場やバイオマス発電所との連携です。「こうした事業者に協力いただかないと実装が進みません。またCPセンターをどこまで分散させてつくるかも重要です。CCU材料である砂利や砂は重くて安価なものなので、分散して設置する方が運搬距離が短くなり良いのですが、CPコンクリートの供給エリアが小さくなり出荷量あたりの建設コストが高くなってしまいます。どこまで分散させ、どこまで集約するか最適解を実証の中で求めていく必要があります」と、栗本プロジェクトマネージャーはみています。
セメント製造プロセスでCO2を回収
セメント産業では資源循環量の10%に当たる廃棄物・副産物を原料として取り込み、資源循環に大きく貢献しています。さらに、世界的に見ても日本はトップレベルの省エネ技術を誇っています。しかし、主原料の石灰石を焼成する過程で大量のCO2が発生し、こうした原料由来のCO2排出が60%に及びます。セメント産業におけるCO2排出量は国内総排出量の3~4%を占め、カーボンニュートラルに向けてCO2の排出をいかに削減していくかが大きな課題です。
街づくりにおいても、社会インフラの担い手としてセメントは無くてはならない素材です。ただ、鉄鋼などと並んで従来技術ではCO2の削減が困難な産業セクターであり、技術のブレークスルーが必要となっています。
こうした状況からGI基金事業では2つの研究開発項目に取り組んでいます。1つが「製造プロセスにおけるCO2回収技術の設計・実証」で、もう1つが「多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立」です。
前者では、CO2回収型仮焼炉を用いて削減困難な原料由来のCO2を回収することを主眼に、そのCO2と水素からメタンガスを合成して燃料に転換するという筋道を描いています。セメント製造に適したメタン合成や利用の技術開発は実験機での実証を進め、実装フェーズではフィージビリティスタディー(実現可能性調査)を行う計画です。

NEDOの内田俊一郎プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査)
CO2回収型仮焼炉とは、従来のプレヒーター(予熱装置)の仮焼炉に CO2 回収のプロセスを組み入れたシステムで、世界トップレベルの省エネである既存のシステムをさらに発展させた技術です。既存のプレヒーターとロータリーキルン(回転窯)をそのまま活用し、 CO2回収型仮焼炉に大気ではなく酸素を取り込んで、キルンとは分離した排ガス系統から高濃度なCO2を回収するメカニズムです。山口県山陽小野田市の実験機で2024年から実証試験が進んでおり、さらに2026年度から実工場での実証に着手する計画になっています。
「海外では、CO2の回収はアミン法と呼ばれる化学吸収法がメインになっています。しかし、国内のプラントでは、アミン法の大きな設備を敷地内に建設するのは難しい状況です。そこで、石灰石を焼成してCO2を放出する際に直接回収するプロセスを組み入れ、コンパクトな設備で効率良く回収する形です」と、NEDOサーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査の内田俊一郎プロジェクトマネージャーは説明します。回収エネルギーについては、アミン法より2割以上削減することを目指しています。

山口県山陽小野田市の実験機。CO2回収型仮焼炉を用いている。
(出典)「製造プロセスにおけるCO2回収技術の設計・実証」の事業戦略ビジョンより
一方、「多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立」では、カルシウムを多く含む廃棄物を引き受けてセメント工場から出るCO2と結びつける技術を開発しています。「天然の石灰石に代替できる人工石灰石を生成します。人工石灰石にはCO2を取り込んでいるのでカーボンニュートラルに貢献でき、その点に着目して始めたのが今回の開発事業です」。NEDOサーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査の川俣孝治プロジェクトマネージャーはこう振り返ります。
テーマに「多様な」とある通り、様々な廃棄物で開発を進めています。まず対象となるのはゴミ焼却場の焼却灰と廃石こう、建物の建て替えで出る石こうボードです。これらを、セメント工場の排ガスで純度95%ほどの人工石灰石にします。間接炭酸塩化によって効率良く行います。
生コン工場のスラッジ水や、コンクリート2次製品工場のスラッジ水も対象です。2次製品工場では、蒸気養生の際に出るCO2をスラッジ水に練り混ぜて使えばCO2を取り込んだ人工石灰石を作ることができます。「これらはスラッジ水の中でCO2をバブリングする直接炭酸塩化を用いており、簡単な設備で済むので地産地消として全国に普及できるものです。純度を高めていくことが課題ですが、こうした技術も並行して開発しています」と、川俣プロジェクトマネージャーは説明します。

NEDOの川俣孝治プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル鉱物化チーム主査) 手元の瓶は廃石こうボード粉から製造した人工石灰石のサンプル。

2021年のプロジェクト採択後の事業計画。24年からパイロット設備を運営中 (出典)住友大阪セメント
ポルトランドセメントのJIS改正により、少量混合成分量が5%から10%に増える予定です。人工石灰石は天然の石灰石と遜色のない品質であることから、少量混合成分として利用することが可能となります。出来上がったセメントはJIS規格のセメントですので、土木・建築構造物にこれまでと何ら変わることなく、利用していくことが可能となります。
いろいろな用途で実証事例が増えています。例えば、大阪・関西万博では住友館の外構に人工石灰石を使用したコンクリートブロックを用いました。道路では、人工石灰石の白色性を生かして路面表示用塗料として使った例もあります。このほか空げき(物と物の隙間)を持つポーラス状のアスファルト混合物に人工石灰石を使用した特殊セメントミルクを流し込んで仕上げた半たわみ舗装は、交差点やバス停のわだち掘れ防止として採用された例などがあります。
研究開発に取り組む企業が連携し、セメント産業としてセメント工場から排出されるCO2を回収し、そのCO2を活用して廃棄物などを炭酸塩化していくことを目指しています。
街づくり特集【第1回】では、「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」を取り上げ、GI基金事業で関連するプロジェクトについて解説しました。街づくり特集【第2回】では、「高層建築物等の木造化に資する等方性大断面部材の開発」と「軽量フレキシブルペロブスカイト太陽電池の量産技術確立とフィールド実証」について紹介します。



