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2026.04.14
エネルギー構造転換分野産業構造転換分野解説記事

工場特集【第2回】手段を組み合わせてCO2排出を相殺

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工場特集の2回目は、NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金事業の中でも、CO2を回収・利用するプロジェクトに着目します。

CO2を分離回収し地域で再利用へ

GI基金事業の「CO2の分離回収等技術開発」プロジェクトでは、CO2を低コストかつ低エネルギーで分離回収する技術の確立を目指しています。

プロジェクトで対象とするのは、CO2濃度が10%以下の低圧・低濃度CO2です。石油化学や製鉄所など20%以上の高濃度CO2を排出するプラントでは、世界的にもCCS(CO2の回収・貯留)やEOR(CO2等を用いた原油の増進回収法)が実用化されています。

一方で、低濃度のCO2に関しては、効率的にCO2を回収するのが難しく、技術が確立していない領域です。「今回のプロジェクトは、この領域に踏み込んだものです。今後、脱炭素の流れを汲む一方、全ての産業で利用されるエネルギーを再生可能エネルギーで置き換えることは困難であることが想定されています。化石燃料の中では、天然ガス・都市ガスの重要度が高まることが想定され、中小工場の工業炉やボイラーの燃料を都市ガスとした場合、その排出ガス中のCO2濃度は、7~9%であることから、本プロジェクトが実用化されれば、これらの工場のカーボンニュートラル化に大きく貢献できます」とNEDOサーキュラーエコノミー部CO2分離回収チーム チーム長の大城昌晃プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの意義について説明します。

各設備から排出されるCO2の濃度と回収時期の目標の相関
(出典)NEDOホームページ「CO2分離回収技術の進化で、カーボンニュートラル実現を目指す!」より

現在、CO2を回収する技術としては、アミン系溶液を用いた「化学吸収法」が一般的です。ただし、大量のエネルギーを必要としコストが高いのが課題です。「既存技術では、CO2を1トン回収するのに約1万円のコストがかかります。プロジェクトではこの価格を2030年の段階で約1/3にすることを目標にしています」と大城昌晃マネージャーはコスト目標について語ります。

この目標に向けて、現在複数の研究グループが研究を進めています。中には、2025年にノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進先生の研究テーマである「金属有機構造体(MOF)」を、CO2の分離回収に活用した研究も含んでいます。MOFの案件を含め、GI基金事業で取り組む7つの案件は、いずれのグループも、プロジェクトにおけるマイルストーンとなるステージゲートを順調にクリアしています。

NEDOの大城昌晃プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部CO2分離回収チーム チーム長)

プロジェクトでは、CO2の分離回収を低コストで実現することが第一のターゲットですが、「回収したCO2をどのように使用していくのか、そのサプライチェーンの構築もカギを握っています」と大城プロジェクトマネージャーは指摘します。「回収CO2の利用を考えたときに、直近では、“産業ガスとしての直接利用”と”Hard-to-Abate Sectorと呼ばれるCO2排出削減が困難な産業”を目指すべきと考えています。CO2は地球温暖化の原因として排出量の削減が進む一方で、産業用途のCO2は不足しているという実態があります。需要が高まる夏場においては、炭酸飲料やドライアイスに使用するCO2を海外からの輸入する事態となっており、その場合、長距離輸送によるコストもかかります。熱プロセス等で回収したCO2を近隣工場にガスのまま供給できれば、輸送負担が抑えられ、地産地消によるコスト削減が可能です。

また、“Hard-to-Abate Sector”として挙げられプロセスに「浸炭処理」というものがあります。「浸炭処理」は、金属表面を硬化させるためのプロセスであり、原理上“炭素”が必要であることから、CO2の循環利用が可能な例です。GI基金プロジェクトに参画しているデンソーでは、回収したCO2をメタネーション設備によってメタンに転換し、そのメタンを浸炭処理の炭素源として再利用する検討を進めています」。

将来的には、水素とCO2から作る合成液体燃料の原料としても期待できます。「現状では水素の価格が高く、合成燃料の用途に供給されるのは、少し先になると考えられます。このため初期の段階として、CO2を直接利用する用途から実績を作ることが重要である」と大城プロジェクトマネージャーは、社会実装の道筋を語ります。

もちろん、CO2の分離回収装置を現状の熱プロセスに追加設置するのは簡単ではありません。CO2の処理量、回収したCO2濃度により設置費用は変わってきますが、装置を導入するのには、少なくとも数億円の投資が必要になると想定されます。一方、2026年度から、「排出量取引制度」が本格稼働することから、各事業者に割り当てられた排出枠を超過する場合、排出枠を購入する必要があります。今後規制が強まれば直接コストは増大します。今後は「排出コストを払い続けるか」「投資して排出を削減するか」、「燃料転換などでCO2排出を抑制するか」など複数の選択肢を踏まえて検討が求められます。

「これらの技術はいますぐ導入する必要はないかもしれません。しかし、自社にとって望ましいカーボンニュートラルの姿と、その実現手段の選択肢は今から検討すべきです」と大城プロジェクトマネージャーは語ります。その議論の土台となる技術の確立が、本プロジェクトの狙いの1つです。

CO2由来の燃料を利用することで脱炭素化の実現へ

工場の熱プロセスにおいてCO2を排出しながらも、カーボンニュートラル化を目指すもう1つの手段が、CO2などのカーボンを含む原料を素材とした燃料を利用する方法です。燃焼時にCO2は出るものの、燃料製造時に同量のCO2等を利用するため、トータルで大気中のCO2は増えません。

GI基金事業の「CO2等を用いた燃料製造技術開発」プロジェクトは、上記のようにカーボンニュートラルに向けた1つの選択肢として、回収したカーボンを活用した“カーボンリサイクル燃料”を合成できる技術の確立を目指します。プロジェクトでは、①合成燃料②SAF③合成メタン④グリーンLPGの4種類の燃料を対象にして研究開発を進めています。工場用途では特に、合成メタンとグリーンLPGの実用化が期待されます。

本プロジェクトの特徴は、「既存の化石燃料と同じように使える燃料」を開発する点です。工場ではその規模や用途によって、重油や都市ガス、LPGなど多様な燃料が使われており、設備もそれぞれ異なります。

合成メタンを利用して工場のカーボンニュートラル化を実現するイメージ。工場からCO2は排出するが、合成メタンの生成時にCO2を利用するので、両者が相殺され大気中のCO2は増やさない
(出典)NEDOホームページ「CO2等を用いた燃料製造技術の開発を加速」より

NEDOの定兼修プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル化学品・燃料チーム主幹)

そのため、既存の燃料と同じように使えるカーボンリサイクル燃料は、工場側から見れば今までの燃焼設備をはじめとするインフラ自体に改良の必要はありません。「設備の交換を必要とせず、効率的にカーボンニュートラル化を目指すためには、有力な選択肢といえます」とNEDOサーキュラーエコノミー部カーボンリサイクル化学品・燃料チーム主幹の定兼修プロジェクトマネージャーはその意義を語ります。

インフラがそのまま利用できるメリットが享受できるのは、利用者側と共に燃料を供給する側も一緒です。プロジェクトの開発要件として、それを担保することが組み込まれています。「現在の燃料と同じ燃焼を可能にして、利用者側も供給側もあらゆる機器の操作条件を変更することなく、利用可能にした上で、市場投入することを前提にしています」と定兼プロジェクトマネージャーは説明します。

合成メタンは都市ガスなどの代替を想定し、東京ガスを中心とするグループと大阪ガスを中心とするグループが、開発に取り組んでいます。2030年度までにメタン合成するプロセスの総合的なエネルギー変換効率60%以上を実現することが目標です。水素を使わずに、水とCO2から合成メタンを作るという点で、世界にも類をみない画期的な開発に挑んでいます。グリーンLPGは、既存のLPGの置き換えを狙ったもので、古河電気工業が開発に取り組んでいます。2030年までに1000トン以上生産し、商用化を目標としています。

カーボンリサイクル燃料は、工場においては燃料を単に変えるだけという利点がある反面、燃料コストが高くなりがちです。需要家が安定的に購入しないと大規模プラントを建設しにくく、コスト低減が進みません。「国と協力しながら、このジレンマを乗り越える必要があります」と定兼プロジェクトマネージャーは語ります。

また、設備に何の改良もなく燃料を変えるだけでカーボンニュートラルを目指せる点で、中小企業でも導入しやすい選択肢ですが、ここでもコスト面の支援は不可欠です。環境価値だけで高コストを吸収するのは難しく、継続的に使える仕組みづくりが求められます。

さらに、定兼プロジェクトマネージャーは「カーボンリサイクル燃料を使っても完全なカーボンニュートラルを実現できるわけではありません。この点には誤解がないように認識してほしいです」と注意を促します。都市ガスを合成メタンに置き換えても燃焼時にはCO2を排出しますが、合成時にCO2を取り込むことで大気中のCO2総量は増えません。ただし、再エネが十分でない現状では、製造過程でCO2排出をゼロにすることは困難です。

一方で、特定の活動をするにあたってのCO2排出量を示す指標である「炭素強度」の観点では、カーボンリサイクル燃料の利用は自然由来の化石燃料の利用と比較して大きな環境価値を持ちます。炭素強度によって環境価値を定量的に示す制度整備も進められており、「制度と連動してCO2削減効果が評価される燃料にしていきたい」と定兼プロジェクトマネージャーは展望を語ります。

日本の工場は長年の改善によって高い生産性と品質を実現してきました。その最適化された姿を大きく変えることなく、燃料の置換だけでカーボンニュートラル化に近づけるカーボンリサイクル燃料は、他に類を見ない現実的な選択肢だといえます。

工場でカーボンニュートラルへの布石、着々と

工場の熱プロセスのカーボンニュートラルを実現するために、GI基金事業で取り組んでいるプロジェクトについて2回に渡って紹介しました。今後、多くの工場がカーボンニュートラルを実践する際、GI基金事業の取り組み・成果が羅針盤となるよう、今後も事業の進捗・成果にぜひ注目してください。