NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金事業「廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現」プロジェクトにおいて、参画するJFEエンジニアリングは同社グループ会社のJ&T環境と共同で、廃棄物から高品質な合成ガスを製造する新しいガス化改質プロセスを適用した小型炉実証設備を完成させ、2025年12月から実証試験を開始しました。
今回の小型炉実証設備は、「廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現」プロジェクトの研究テーマの1つである「ガス化改質と微生物を用いたエタノール製造による廃棄物ケミカルリサイクル技術の開発」(以下、本研究テーマ)を推進する核となるものです。本研究テーマでは廃棄物から合成ガスを製造し、続いて合成ガスから高付加価値な化学品の製造を目指しています。

廃棄物ケミカルリサイクル技術の小型炉実証設備。J&T環境の千葉リサイクルセンター(千葉市中央区)内に設置(画像:JFEエンジニアリングの提供)
廃棄物処理のパラダイムシフト、Waste-to-EnergyからWaste-to-Chemicalへ
小型炉実証設備の完成は、資源循環分野におけるイノベーションを加速させ、CO2排出削減が困難な産業である廃棄物処理において、炭素循環という新たな選択肢を示すものです。従来の廃棄物処理では、「Waste-to-Energy(WtE)」、すなわち廃棄物の焼却熱を利用した発電が推進され、化石燃料による発電を代替することによりCO2排出量の削減に貢献してきました。しかし、WtEでは、燃焼に伴うCO2排出を完全にゼロにすることはできず、カーボンニュートラルを達成するためには、廃棄物分野でのさらなる革新的なアプローチが不可欠でした。
本研究テーマのコンセプトは、廃棄物を「エネルギー源」として利用するWtEから、「化学品の原料」として活用する「Waste-to-Chemical(WtC)」への転換にあります。このプロセスを通じて作られる精製合成ガスは主成分が水素(H2)と一酸化炭素(CO)であり、メタノール、プラスチックの原料、持続可能な航空燃料(SAF)、水素などの化学品製造に利用できます。これにより、化石燃料由来の原料を使用せずに化学品を製造することが可能となり、資源循環の促進、さらにはバリューチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出量削減に貢献できます。
世界では、欧州において自動車分野でリサイクル材比率を高める規制が強化されているほか、航空分野でSAF導入の国際的な目標が掲げられるなど、資源のリサイクル需要や脱炭素燃料の需要が高まっています。そうした状況の中で、本研究テーマは、従来技術ではリサイクルが困難な廃棄物も受け入れ、高付加価値な再生資源へと転換することで、産業界の喫緊の脱炭素ニーズに応えることができる基幹技術として、その社会的意義は極めて大きいといえます。
技術的優位性は“設備の安定稼働”と“高品質合成ガスの安定生成”
今回、GI基金事業で完成した設備で実証実験を進めるJFEエンジニアリングは、廃棄物をガス化する商用規模の設備を1999年に建設して以来、国内で25年以上にわたり運転・保守のノウハウを蓄積してきました。この豊富な運転実績が、設備の「安定稼働」と、化学品メーカーへの「高品質合成ガスの安定供給」という2つの要件を技術的に裏打ちする信頼性の基盤となっています。
本ガス化技術の特徴を説明します。まず、通常の焼却炉が空気を使い、炭素をCO2になるまで完全に燃焼させるのに対し、本技術では、空気の代わりに酸素を投入します。廃棄物の一部は熱分解され、廃棄物中に含まれる炭素分を不完全酸化することで、H2, COがそれぞれ30%以上、CO2が30%以下、窒素が5%以下の合成ガスが得られます。生成ガスはダイオキシン対策のため急冷された後、多段にわたる洗浄処理が施されることで、有害物質が除去されたクリーンなガスとして精製されます。精製合成ガスのH2, CO濃度は化学品原料として利用も可能なレベルですが、技術が導入された2000年代前半にはそうしたニーズがなく、ガス燃焼による発電が実施されてきました。
また、ガス化炉の底部は、1600℃から2000℃という超高温で運転されます。この超高温下で設備を健全な状態に維持する技術は、製鉄プロセスの経験で培われた耐火物や水冷技術の応用で実現されたものです。この高温処理能力により、紙くず、厨芥、プラスチックなどに加え、リサイクルが難しいために多くが焼却・埋立に回されていた自動車シュレッダーダスト(ASR)や異材複合品などの廃棄物も原料として受け入れることが可能です。投入された廃棄物は熱分解・ガス化され、その残渣は完全に溶融し、スラグ(ごみ中の灰分などが高温で溶融された後に冷却・固化したもの)やメタルとして回収・有効利用されるため、廃棄物の最終処分量削減にも貢献します。
こうした従来技術の特徴と運転実績を踏まえて、本研究テーマで開発する技術は多岐にわたります。まず最も重要な開発項目が、「スクリューフィーダーを用いた連続給じんシステム」です。これは従来の油圧式バッチ投入方式では難しかった廃棄物の連続投入を可能にする技術です。廃棄物の連続投入は、炉内への安定した原料供給を可能にし、COやH2といった生成するガスの量やガス品質の変動を抑制する効果があります。さらに、炉内が正圧(1.2気圧程度)で運転されることによるCO高濃度ガスの設備外への漏洩リスクを最小限に抑えるため、フィーダー構造にガス遮断機能などの改良を加え、安全性と連続投入の両立を実現することを目指しています。

スクリューフィーダーをはじめとして、小型炉実証設備を構成する重要なプラント機器(出典:JFEエンジニアリング)
また、合成ガス中のCO濃度を高めるために、合成ガスに含まれ、後段の化学品製造プロセスで余剰となりやすいCO2を回収してガス化改質炉に戻して投入し、COに転換する技術も開発します。今回の小型炉実証設備には後段の化学品製造プロセスは設置されていませんが、別途調達したCO2をガス化改質炉に投入する試験を行い、CO濃度が向上するか確認を行います。

今回のガス化炉(C-PhoeniX方式)の優位性(出典:JFEエンジニアリング)
さらに、今回の開発では熱回収にもチャレンジします。従来、生成されたガスはダイオキシン対策のため、ダイオキシンが生成しやすい温度帯(200~500℃)で滞留しないよう、1200℃から 70℃付近まで 1 秒未満という短時間で急冷していました。今回、プロセス全体のエネルギー効率改善とダイオキシン低減との両立を目指し、ボイラーを設置して1200℃から 600~800℃付近まで熱回収を実施した後に急冷するプロセスに変更します。高温のガスに付随する溶融スラグやダストなどがボイラー伝熱面に付着してトラブルが発生する懸念があり難易度は高いですが、付着防止対策を図りながら熱回収に取り組みます。
このほか、生成ガスの冷却技術も新たに開発します。従来は冷却水の顕熱により冷却していましたが、冷却後の水を再利用するために大きな熱交換器を設置し、冷却水温度を下げるプロセスが必要となっていました。今回はそうしたプロセスを省き、設備費とメンテナンス費用を低減するため、比較的高温の水を蒸発させる“蒸発潜熱”による冷却技術を開発します。
JFEエンジニアリングは今回開発するプロセスを「C-PhoeniX Process(シー・フェニックス・プロセス)」と命名し、今後、開発・実証、そして社会実装を進めていきます。
2027~2028年から大規模実証へ
本プロジェクトの社会実装に向けたロードマップでは、段階的にスケールアップしていきます。まず、今回竣工した小型炉実証設備を使って2026年度の上半期まで本格的な廃棄物処理実証試験を実施し、技術的な信頼性を検証します。合成ガスの生成量は日量20トン規模を予定します。
その後、2027年度末までに大規模実証設備の基本設計を実施し、2028年以降は、日量150トン規模の商用機スケールに拡張した大規模実証設備の建設、そして大規模実証へと移行します。大規模実証では、JFEエンジニアリングが生成したガスを用い、同社とパートナー企業が連携して化学品を製造するまでの一貫した実証を行う計画です。なお、大規模実証では、当初、積水化学工業株式会社をパートナー企業としてエタノールの製造を目指しておりましたが、同社は本プロジェクトから離脱することとなりましたので、今後、別の企業と連携して、大規模実証を進める予定です。最終的に、実証の成果を踏まえ、2030年までの社会実装を目指し、以降は国内外で最適なパートナーと連携した商用化プロジェクトを順次実施していく方針です。

C-PhoeniX Processの技術、および廃棄物分野のカーボンニュートラルに向けた中⻑期シナリオについて説明するJFEエンジニアリングの環境本部開発センターWtCPJチームでチームリーダー(主席)を務める奥山健一氏
廃棄物処理を「コスト」から「価値」へ転換し、バリューチェーンを構築
廃棄物ガス化改質プロセスと合成ガスを利用した化学品製造が社会に浸透するためには、技術的な成功だけでなく、経済的な事業性の確立が不可欠です。JFEエンジニアリングは、廃棄物から高品質な合成ガス(精製合成ガス)を安定的に製造・供給する上流技術(ガス化)に特化し、合成ガスを具体的な化学品へと転換する下流工程については、化学品メーカーをはじめとした外部のパートナー企業との協業を通じて、強固なバリューチェーンを構築する戦略を採る予定です。
将来的には、合成ガスからメタノール、ポリマー、そしてSAFなど、幅広い化学品を製造できるパートナーを探索し、需要側の多様なニーズに合わせた事業化を推進する計画です。

C-PhoeniX Processのケミカルリサイクルプロセスへの適用の可能性(出典:JFEエンジニアリング)
この革新的な技術が直面する最大の課題は、コストギャップの存在です。ガス化改質プロセスを通じてリサイクル由来の化学品原料を製造する工程は、石油由来の原料製造よりも規模が小さく、現状ではどうしても原価が高くなる傾向にあります。
JFEエンジニアリングの取締役専務執行役員の鮎川将氏は、「事業の成功には、技術開発によるコスト低減努力に加え、作り手と使い手の価格に対する期待感のギャップを調整することが不可欠です」と指摘します。このコストギャップを埋めるためには、再生材にプレミアム(割増価格)を支払うことを許容できる高付加価値市場、具体的には自動車分野やSAF市場の開拓が鍵を握っています。
実証試験を通じてガスの安定供給と歩留まりの向上を図り、リサイクルコストの低減に努める一方、需要側の企業に対しては、再生材のプレミアム価格を許容する条件の提示や、長期契約に向けた協議を促すなど、事業性評価と市場開拓を両輪で進めていく方針です。
廃棄物処理分野は、CO2排出削減が特に難しい「hard-to-abate」(排出削減困難な領域)の1つと認識されています。ガス化改質プロセスは、hard-to-abateな課題を解決し、廃棄物処理を「コスト」から「価値」へと転換する可能性を秘めています。
NEDOの福永茂和サーキュラーエコノミー部長は、「本プロジェクトは、廃棄物焼却に伴うCO2排出の削減に加え、化学品の製造に伴うCO2排出量や原料消費の削減にもつながり、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーの実現に大きく貢献するものです」と、本プロジェクトの意義を強調します。
今回の小型炉実証設備の竣工式(2025年11月12日開催)に出席した環境省の環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長の杉本留三氏は、本実証設備が国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)において世界的な気候変動対策の議論が続く中で稼働したことの重要性に言及しました。「わが国は、2050年カーボンニュートラルの達成に向け、地球温暖化対策計画の改定やGX推進法の改正など、脱炭素化の取り組みを加速させています」とした上で、「従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)に加え、“炭素循環”という大きな資源循環の選択肢を示す挑戦であり、カーボンニュートラルを実現するための必要不可欠な技術分野に挑戦するものとして、大いに期待しています」と、研究プロジェクトへの強い期待を示しました。

左から、JFEエンジニアリングの取締役専務執行役員の鮎川将氏、NEDOの福永茂和サーキュラーエコノミー部長、環境省の環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長の杉本留三氏。小型炉実証設備の竣工式(2025年11月12日開催)において、今回の設備およびプロジェクトの意義を語った。
NEDOの木村正伸プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部 廃棄物処理炭素循環プラントチーム長)は、政策的なニーズやGI廃棄物プロジェクト全体の意義、そしてJFEエンジニアリングのプロジェクトへの期待を以下のように説明します。
「廃棄物分野から排出されるGHGは、世界および日本全体の排出量のうち、約3%を占めています。主に、廃棄物の焼却によるCO2排出や、埋立処分によるメタン排出がその要因です。これらは廃棄物に含まれる炭素に由来するため、省エネルギー対策や再生可能エネルギーへの転換では削減が困難です。今後、プラスチックなどの3R(Reduce・Reuse・Recycle)をさらに推進することが重要ですが、カーボンニュートラルの実現を目指す2050年においても、衛生面などの理由から廃棄物の焼却処理は必要です。そのため、焼却処理される廃棄物から炭素を回収し、有効利用または貯留するCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)技術が不可欠です。さらに、回収した廃棄物由来の炭素を原料や燃料として利用できれば、他の産業、セクターにおけるGHG排出削減にも貢献することができます。

NEDOの木村正伸プロジェクトマネージャー(サーキュラーエコノミー部 廃棄物処理炭素循環プラントチーム長)
こうした背景のもと、グリーンイノベーション基金事業「廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現」プロジェクトを実施しています。本事業では、焼却処理で発生するCO2の分離・回収技術に関するプロジェクト2件、メタン発酵バイオガス中のCO2のバイオメタネーション技術に関するプロジェクト1件とともに、このJFEエンジニアリングによる廃棄物の熱分解ガス化と生成ガスを利用した化学品製造のプロジェクトを実施しています。
JFEエンジニアリングのプロジェクトで開発する技術の最大の特長は、一般家庭から排出される「燃えるごみ」のように、多種多様なものが混在した廃棄物であっても、ケミカルリサイクルが可能である点です。さらに、廃棄物中の有機物に含まれる水素を利用するため外部から水素を供給することなく化学品を製造できること、合成ガスから多様な化学品を製造できること、そして25年以上にわたるガス化施設の運転実績を有していることなど、数多くの強みを備えています。本プロジェクトでは、化学品製造に適するように、従来技術よりも安定的かつ効率的にガスを生成する技術の開発を進めています。これにより、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの実現に大きく貢献することを期待しています。
NEDOとしても、本プロジェクトを成功させ、その成果を社会実装につなげられるよう、取り組んでまいります。」

