
再生可能エネルギーで発電した電力を使って水素を大量かつ低コストで製造し供給する技術を確立するために、NEDOは「グリーンイノベーション(GI)基金事業/再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」プロジェクトを推進しています。水素や燃料電池に関連する産業の集積地を目指す山梨県企業局を幹事企業に、プロジェクトに参画した10団体によって、国内最大規模となる水素製造拠点「グリーン水素パーク -白州-」(以下、グリーン水素パーク)が山梨県北杜市に建設されました。生産する水素は製造工程でCO2を排出しない「グリーン水素」です。大口需要家となる隣接のサントリー天然水 南アルプス白州工場に対して、2025年10月から化石燃料の代替としてグリーン水素の供給が始まっています(https://www.nedo.go.jp/ugoki/ZZ_101432.html)。水素利用の社会実装には、水素を供給する設備だけでなく、水素の需要創出が欠かせません。グリーン水素パークでの取り組みは、供給と需要の双方を備えた社会実装のモデルケースを示しています。
水電解装置の装置容量は16MW、フル稼働時の水素製造量は年間2,200t
グリーン水素パークに設置した水電解装置の装置容量(単位時間あたりに処理できる電力)は国内最大規模となる16MWで、国が2030年までの実現を目指す100MW級の水素製造設備に向けた足掛かりとして位置付けられています。24時間、365日フル稼働したときの水素製造量は年間2,200t、CO2排出削減量は年間16,000tに相当します。
水素は、カナデビアが開発した6MWの水電解装置と、シーメンス・エナジーが開発した10MWの水電解装置の2系統によって製造されます。このうちカナデビアの水電解装置は、より大容量の製造設備の実現を見据え、規模に応じた拡張が図れるように2MWを単位とするモジュールで構成しています。
両社の水電解装置はいずれも、東レが開発した炭化水素系電解質膜を用いて純水から電気分解によって水素をつくる仕組みです。固体高分子(PEM)型と呼ばれるこの方式は、アルカリ型や固体酸化物形電解セル(SOEC)といった他の水電解方式に比べて設備をコンパクトに構成できて、しかも供給電力の変化への応答性にも優れているといった特長があり、発電量が変動する太陽光発電や風力発電との組み合わせに適します。なお、アルカリ型やSOECにもメリットはあり、NEDOは別のプロジェクトでそれぞれを推進しています。
水電解装置で生産した水素は、およそ2kmのステンレス製パイプラインを経由して、隣接地にあるサントリーの南アルプス白州工場に供給されます。その際、両社の装置が出力する圧力をそろえるために、圧力の低いシーメンス・エナジー側の出力を加地テックの除湿圧縮装置を用いてカナデビア側の圧力(約8気圧)にまで高めています。サントリーの南アルプス白州工場に供給された水素は、三浦工業の水素ボイラーの燃料として使われます。水素ボイラーで発生させた蒸気を天然水の滅菌・殺菌工程で用います。

国内最大規模のグリーン水素製造・利用設備「グリーン水素パーク -白州-」の概要。カナデビア製とシーメンス・エナジー製の2系統の水素製造装置で構成され、パイプラインを経由して隣接地にあるサントリーの南アルプス白州工場に化石代替燃料として供給される(出典:山梨県企業局)
なお、再エネに由来した電力から水素を製造するために、グリーン水素パークで用いる電力は、東京電力がCO2排出実質ゼロとして供給している「グリーンベーシックプラン」契約に基づいたものを使用しています。高圧で受電し、ニチコンなどの変圧整流器によって水電解装置に与える直流電圧をはじめ各設備が必要とする電圧に変換しています。
100MW級の大規模化を見据えた技術開発と実証を推進
水素利用を社会に広げていくには、水素供給設備の大型化、水素の製造コスト低減、そして前述した需要の創出が必要です。本プロジェクトはこの3つを実現する開発を進めており、グリーン水素パークでの取り組みはその考えに基づいています。具体的には、本プロジェクトで掲げる研究開発項目「水電解装置の大型化技術等の開発、Power-to-X 大規模実証」におけるテーマの1つ、「カーボンニュートラル実現へ向けた大規模P2Gシステムによるエネルギー需要転換・利用技術開発」での活動です。このテーマでは具体的な研究開発内容として、(1)水電解装置の大型化・モジュール化技術開発、(2)優れた新部材の装置への実装技術開発、(3)熱需要や産業プロセス等の脱炭素実証、の3つに取り組んでいます。
(1)は、量産可能かつスケーラブルな特徴を備えた水電解装置の大型化・モジュール化を実現する技術を開発することです。「国は2030年までにPEM型100MWシステムの実現を目指すことを方針として定めています。今回のGI基金事業の成果を将来の大型化に展開していくには、基本となるモジュールを開発し、そのモジュールを必要な容量に応じて複数並べる構成が望ましいと考えました」と、NEDO 水素・アンモニア部 大規模水素利用ユニット GI水素チーム チーム長の釘宮貴徳プロジェクトマネージャーは語ります。

NEDOの釘宮貴徳プロジェクトマネージャー(水素・アンモニア部 大規模水素利用ユニット GI水素チーム チーム長)
こうした要件に対してカナデビアが開発したのが、125枚の水電解膜で構成される670kWの水電解セルを3槽横並びに配置した2MWモジュールです。グリーン水素パークではこの2MWモジュールを3組並べて6MWを得ています。将来、他の水素製造設備に展開するときに、需要に応じてモジュール数を増やすことで100MW規模のシステムを実現可能です。整流器などの補機類は10MW(5モジュール)を単位に設置する構成となっていて、大型化した場合の補機類の増加も抑えられるように工夫しています。

カナデビアの水素製造装置。670kWの水電解セルを3槽横並びで配置した2MWのモジュールを写真の奥行方向に3系統配置している。写真左手奥は整流器などの補機類(出典:山梨県企業局)
(2)は、低コストと高効率につながる部素材を水電解装置に実装する技術を開発することです。水電解装置に用いる東レが開発した炭化水素系電解質膜は、世界最高水準の性能を持ちます。大型の実システムにおいても高い性能を実現するには、スタッキング(膜などの部材の積層方法)構造の最適化や、高コストな触媒金属の使用量を抑えた電極の開発など、水電解装置メーカーとの間で実装のすり合わせが必要です。本テーマでは、10MWの装置容量を持つシーメンス・エナジーの水電解装置において、膜やその他の主要部品を実装する技術の開発及び確立を目指します。併せて、シーメンス・エナジーの水電解装置から出力されるフルウェット水素(水分を含んだ水素ガス)を対象にした大規模除湿・圧縮システムの開発も目標の1つに据えていて、その開発は加地テックが担当しています。
(3)は、水電解による水素供給システムによって、化石燃料からエネルギー需要を水素に転換するモデルを開発することです。NEDOの釘宮プロジェクトマネージャーは「水素の活用を通じてCO2排出量を削減していくには、化石燃料の代替として利用を拡大していくことが重要です」と説明します。例えばボイラーで蒸気を発生させるときに、重油やLNGの代わりに再エネ由来で製造した水素を燃料として使用すればCO2の発生をゼロに抑えられます。今回のプロジェクトでは、工場などを持つ企業が水素を導入しやすいように水素ボイラーを活用する技術のパッケージ化や、水素製造及び水素利用の運用のパッケージ化を進めています。

化石燃料であるLNGの代わりに水素を燃料として使用した場合の模式図。一定に運転するベース運転モデルと、需要変動に応じて運転量を変えるターンダウンモデルがあり、運用ノウハウを蓄積していく(出典:山梨県企業局)
水素のコストについては、2030年の量産コストとして272千円/Nm3/h(6.5万円/kW)を見通しながら、2026年12月時点で1,050千円/Nm3/h(25万円/kW)の達成を目指しています。また、システム効率は、2030年に80%(4.4kWh/Nm3)を見通しつつ、2026年12月時点で77%(4.6kWh/Nm3)を目指しています。

山梨県企業局 新エネルギーシステム推進課 課長の渡邊憲明氏
山梨県企業局と各参画企業は、上記3項目の開発や評価を進めながら、様々な運用ノウハウの蓄積に努めています。山梨県企業局 新エネルギーシステム推進課 課長の渡邊憲明氏は、「季節ごとの気温の変化の影響や、需要家であるサントリー側の需要変動なども見ながら、エネルギーマネジメントシステムを用いて変換効率などのデータを収集しています」と説明します。気温変化や需要変動がある中で、水素を供給するシステムを安定的に稼働させることで、システムの信頼性が高いことも実証していく考えです。
実績ある米倉山のノウハウを引き継ぐ
ここで、本テーマの幹事企業を務めるとともに、「やまなし水素・燃料電池バレー」として水素及び燃料電池の関連産業の集積地を目指している山梨県企業局の取り組みを紹介しておきましょう。
山梨県企業局は2016年9月から2022年8月まで、NEDOの水素社会構築技術開発事業「CO2フリーの水素社会構築を目指したPower to Gasシステム技術開発」を利用して、甲府市にある米倉山(こめくらやま)のメガソーラー(米倉山太陽光発電所)に1.5MW(最大2.3MW)のPEM型水電解設備を中心とした「米倉山電力貯蔵技術研究サイト」を建設し、運用してきました。水素社会構築技術開発事業の終了後も、水素の製造だけではなく地元企業などに高圧水素ガスを提供し、水素の実用化に向けた実証に取り組んでいます。「米倉山の施設が稼働を始めてから5年近くが経過しますが、大きなトラブルもなく着実かつ安定的な運用が実現されています」と、渡邊氏は述べます。

山梨県甲府市の米倉山に建設されたメガソーラー及び米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジなどの鳥観写真。研究所棟の他に、1.5MW(最大2.3MW)のPEM型水電解設備、水素充填設備などがある。自治体や企業の視察者は年間2,000名に及ぶ(出典:山梨県企業局)
米倉山の事業では、電解膜の開発は東レが担当し、水電解設備はカナデビア(事業開始当時は日立造船)が担当したこともあって、そこで得られたエネルギーマネジメントや運用を含めた様々なノウハウが、グリーン水素パークに反映されています。
山梨県は小水力を含めて27カ所の水力発電所を保有し、70年にわたって電気事業を手掛けてきた歴史を持っています。また、燃料電池の世界的な研究拠点として知られる山梨大学をはじめ、水素・燃料電池関連の研究開発拠点が多いことも強みです。グリーン水素パークが新たに加わったことで、同県の取り組みがさらに加速することを期待しています。
ハブ・アンド・スポークの役割を目指す山梨県
山梨県企業局及び各参画企業はグリーン水素パークの設備から様々なデータを取得しながら、安定かつ最適な稼働を目指して運用ノウハウの蓄積を進めています。「山梨県としての目標は実証を完遂することです。米倉山での実績はありますが、白州は規模も大きくなっていますので、安定した稼働を基本に検証を続けていきます」と渡邊氏は説明します。NEDOのGI基金事業での取り組みは2026年12月で期間満了を迎えますが、いずれは製造した水素を外部にも供給できるように、米倉山と同様に圧縮設備や充填設備を設けることも検討しています。「水素のトップランナーである山梨県として、地域での水素利用や他の自治体との連携も広げながら、ハブ・アンド・スポークの役割をしっかり果たしていきたいと考えています」と渡邊氏は語ります。
NEDOの釘宮プロジェクトマネージャーは、「このグリーン水素パークをモデルケースに、同様の施設が他の地域にも増えて水素の製造と利用がさらに広がってほしいと願っていますし、併せて、設備や運用をパッケージ化して海外市場の獲得も目指していきます」と今後の意気込みを語ります。
NEDOは、将来の100MWクラスを見据えて稼働を開始したグリーン水素パークを社会実装のマイルストーンとして、再エネ由来電力を使った水電解による水素製造や化石燃料の代わりとしての利用を広げ、カーボンニュートラルの実現を目指していきます。

山梨県企業局の渡邊氏(左)と、NEDOの釘宮プロジェクトマネージャー(右)。グリーン水素パークの設備棟前にて

