街づくり特集の2回目は、NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金事業の「次世代型太陽電池の開発」プロジェクトと「食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術の開発」プロジェクトに着目します。
太陽電池を屋根やビル壁面へ、意匠性も重視
最近、ペロブスカイト太陽電池に関する情報を目にする機会が増えています。軽量・柔軟で低コスト化できる可能性を持つ日本発の技術であり、これまで重量の制限などから設置が困難だった建築物の屋根や壁面に取り付けることが可能になります。
「次世代型太陽電池の開発」プロジェクトでは、「次世代型単接合太陽電池実証事業」としてフィールド実証に取り組んでいます。この実証事業には4テーマあり、いずれもペロブスカイト太陽電池を題材にしています。
ペロブスカイト太陽電池の開発によって、街はどう変わるのでしょうか。
「ペロブスカイト太陽電池を建物の屋根や壁面に設置していくことで、自家消費するような発電設備が増えていくイメージです。これは自治体が推進している地産地消の形で電気を賄うことに貢献できます。また、建物への導入が進んでいくと見た目が問題になることがあるでしょう。ペロブスカイト太陽電池だと軽量・柔軟であることに加えて、意匠上のメリットを発揮できると考えています」と、NEDO再生可能エネルギー部太陽光発電ユニット上席主幹の松原浩司プロジェクトマネージャーは、新しい技術が街に溶け込んでいく姿に期待します。
ペロブスカイト太陽電池は大きく分けてフィルム型とガラス型があります。フィルム型は柔軟で曲げられるため、建物の曲面や凹凸にフィットしやすくなります。もう一方のガラス型は建材一体型太陽光発電(BIPV)の一種であり、建材用のガラスを太陽電池の基板とすることができ、またパターンなどを加工して意匠性を高めることが可能です。
フィルム型は当面、市場としてボリュームゾーンと考えられるのが公共施設です。体育館の屋根などが対象になります。松原プロジェクトマネージャーは、「今まさに国が公的な施設から導入を支援していこうとしています」と説明します。

NEDOの松原浩司プロジェクトマネージャー(再生可能エネルギー部太陽光発電ユニット上席主幹)
実際の用途を想定したフィールドでの実証で焦点となるのは、第1に設置方法です。フィルム型という軽量・柔軟な太陽電池を固定するためには、ビス留め、接着などいろいろな方法があります。風で破れたり、はがれたりしないか検討しながら、どうすれば安く確実に施工できるかを考える必要があります。
第2に、施工に当たる作業者による太陽電池の扱いも重要になってきます。試験的な設置の段階では丁寧に扱っていても、実際に広い面積への設置を施工するとなると、現場作業者が折り曲げてしまうなどして設置前に太陽電池が壊れてしまうことも考えられます。そこでNEDOでは、フィールド実証の際の施工手順や注意点をまとめた施工ガイドの作成に取り組んでいます。
フィールド実証として設置した後は、発電量や耐久性を継続して確認していくことが重要になります。

積水ソーラーフィルムは2050年の脱炭素社会実現に向けて、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を三菱UFJ銀行大井支店(東京都品川区)およびMUFGグローバルラーニングセンター(横浜市西区)に設置し、実証実験を行う旨の協定書を締結しました。左は三菱UFJ銀行大井支店に設置した写真、右はMUFGグローバルラーニングセンター設置イメージ(出典:積水ソーラーフィルム)

積水ソーラーフィルムによる福岡市立香椎浜小学校体育館の屋根へのフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実装。設置面積200m2程度、金属屋根における全国最大規模(出典:積水ソーラーフィルム、福岡市)

エネコートテクノロジーズによるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証(出典:日揮)
フィールドでの実証の第3の焦点はO&M(Operation & Maintenance)と呼ぶ運用と維持管理です。「かつては、太陽電池はメンテナンスフリーと言われたこともありましたが、実際には定期的な点検が必要です。していかないといけないし、何年かすると故障するものがあり、交換する必要も出てきます」と、松原プロジェクトマネージャーはO&Mの重要性を強調します。
フィルム型のO&Mに関連して、現在、高層ビルのガラス壁面でメンテナンスに配慮した取付方法を実証しようとしています。ガラス張りの高層ビルの外壁では、上下階の床と天井が接する部分に延焼防止帯を設けることが必要です。この部分を利用して室内から、延焼防止帯とガラス壁面の間に太陽電池フィルムを挿入できるようにするものです。フィルムを交換する場合も外部のゴンドラなどの設備が不要になります。

着脱容易な外壁太陽光パネルを考案(出典:東京電力ホールディングス成果報告会資料)
ガラス型の場合は、建材一体型でのフィールド実証を進めます。建物の外壁用のガラスをそのままペロブスカイト太陽電池にするイメージです。太陽電池を用いなくても建材ガラスは必要なので、実質的なコストは太陽電池の加工にかかる費用だけで済み、トータルではコストダウンにつなぐことができます。ガラス型は、新築時に導入する他、内窓方式で後付けする方法も想定しています。

意匠性を重視した建材一体型のペロブスカイト太陽電池。上2点の写真はガラス型ペロブスカイト太陽電池の先行的な取り組み。下4点の写真は実証事例で左からビルの外壁、ガラス屋根、マンションのバルコニー、商業施設の内部空間の各事例(出典:パナソニック ホールディングス)
フィルム型、ガラス型の両方で共通する課題は耐用年数です。すでにGI基金事業の成果を反映したフィルム型太陽電池の製品は10年保証という形で売られていますが、「現在、研究レベルでは15年や20年の耐用年数が見えてきた状況です。劣化メカニズムの解明や評価方法の検討も進んでいます」と、松原プロジェクトマネージャーは社会実装に向けた課題である耐用年数の延長について現状を語ります。
新しい木材でビルにCO2を大量貯蔵
最近、大都市の大型ビルに木材を活用する例が見られるようになりました。中には10階を超える木造建築物もあります。街づくり特集の最後に、GI基金事業の「食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術の開発」プロジェクトにおける「高層建築物等の木造化に資する等方性大断面部材の開発」について紹介します。
街づくりにおいて、等方性大断面部材の開発がどう貢献するのでしょうか。林野庁森林整備部研究指導課首席研究企画官(農林水産技術会議事務局併任)の都築伸行氏は次のように説明します。「木材による炭素の貯蔵を最大の目的としています。森から切り出した木材を街に運んでビルに利用してもらえれば、ビルが立っている間は炭素の長期・大量貯蔵が可能になります。これに加えて、伐採した人工林に植栽を行うことで、若返りによって森林のCO2吸収能力を回復させる狙いもあります。林野庁では、『伐って、使って、植えて、育てる』というサイクルをうたっており、森林の循環が実現できます」

林野庁森林整備部研究指導課首席研究企画官(農林水産技術会議事務局併任)の都築伸行氏
等方性大断面部材は、原木から大根の桂剝きのように厚さ数㎜の薄い単板を剥き出して、それらを接着剤で重ね合わせてつくる部材です。単板は、丸太から鋸びきして切り出す製材と比較して、高い割合で原木を製品として利用できます(歩留まりが高い)。また、木材は繊維方向に強い性質があり、従来の木質部材では強い方向と弱い方向がありましたが(異方性)、本部材は何十枚も直交させながら重ねているので、いずれの方向にも強度が等しい部材となります(等方性)。
こうした特徴から、設計時に材の異方性を考慮する必要がないため、設計が容易かつ意匠の自由度拡大が期待できます。また、従来は6m程度が限度だった支点間距離を8mに延ばすことができるため、梁や壁の数を減らした大空間が実現できます。

等方性大断面部材のコンセプト図。最大厚さ300㎜まで製作が可能。「高層建築物等の木造化に資する等方性大断面部材の開発」の事業戦略ビジョン(出典:セイホク)

中層ビルの床に等方性大断面部材を用いた場合の構造模型(出典:セイホク)
国土交通省による2024年の建築着工統計調査に基づいて、林野庁木材産業課が作成した資料によれば、床面積ベースの木造率は47.2%です。1~3階建ての低層住宅では木造が約8割を占めるのに対して、中高層の住宅や、住宅以外の建築(非住宅)では木造率が低く、4階建て以上の中高層建築物では1%以下にとどまっています。こうした状況を踏まえ、NEDOフロンティア部GI農水チーム チーム長の渕上恵子プロジェクトマネージャーは、「非住宅や中高層建築における木造化・木質化が、木材利用拡大のカギになっています。都市部では中高層のビルは鉄筋コンクリート(RC)造の場合が多く、それを木に置き換えていくため、従来材を含めた新しい材の活用方法をつくっていくプロジェクトだと考えています」とプロジェクトの位置づけを説明します。

NEDOの渕上恵子プロジェクトマネージャー(フロンティア部GI農水チーム チーム長)
中高層だけではなく、低層でも大規模な商業施設等への展開は効果的です。「例えば、テラスのせり出した床に使うことが考えられます。身近なところで用いれば、『大規模な建築でも木って使えるんだ』という認識が広がり都市部の高層建築にも波及していく可能性があります」と都築首席研究企画官は期待を語ります。
プロジェクトは2030年度までを予定しており、これから実物大の試作品を使って性能データなどを調査した後に日本農林規格(JAS)の案の提案及び認証を取得、建築基準法での認定を目指し、実際に使用できる環境を整備していく予定です。GI基金事業ではJASの規格案を提出することまでを目標としています。規格化を図ることで、国内の木材関連事業者が幅広く参入できる環境を整えることを目指します。

林野庁森林整備部研究指導課課長補佐(調整班)の岩田隆典氏
「都市の木造化によってCO2を吸収・固定化していくことは重要です。中高層木造建築物の建設は民間企業が主体となって進めており、環境意識の高まりを感じています。今回はマテリアルという側面からのアプローチですが、都市の木造化をどんどんと後押ししたいと考えています」と、林野庁森林整備部研究指導課課長補佐(調整班)の岩田隆典氏は話します。
街づくりで脱炭素の布石、着々と
街づくりにおける脱炭素を実現するために、GI基金事業で取り組んでいるプロジェクトについて2回に渡って紹介しました。街を形成する新しいコンクリート、太陽電池、木材の開発に取り組むプロジェクトの進捗・成果にぜひ注目してください。
※肩書きは取材時(2026年3月)



