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2026.04.24
産業構造転換分野インタビュー

次世代航空機の実用化へ前進

空の脱炭素を支える要素技術が出そろう

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次世代航空機の開発において、中核技術の開発が着実に進展しています。NEDOグリーンイノベーション(GI)基金事業「次世代航空機の開発」の一環として進めている「水素航空機向けコア技術開発」では、川崎重工業が2040年ごろの事業化を見据え、重要な要素開発に取り組んでおり、課題を順調にクリアしています。また、「航空機主要構造部品開発」では、新明和工業が補助翼の材料転換に成功しています。2026年1月に開催された「nano tech 2026 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(ナノテクノロジー展)」では、これらの成果をNEDOブースで公開し、注目を集めました。

「ナノテクノロジー展」におけるNEDOブースでの川崎重工業の展示

新興国を中心とした経済成長を背景に、航空機産業は持続的な成長が見込まれています。一方で、2022年10月に開催されたICAO(国際民間航空機関)総会では、「2050年までのカーボンニュートラル」が国際航空分野の長期目標として採択され、脱炭素化への対応が喫緊の課題です。

NEDO GI基金事業の「次世代航空機の開発」プロジェクトは、こうした要請に応えるべく、航空機のカーボンニュートラル化を支える技術の確立を目指しています。加えて「航空機産業のグリーン化を成長機会と捉え、日本の航空機産業の競争力強化につなげる狙いもあります」と、NEDO航空・宇宙部機体・装備品ユニットGI基金チーム チーム長の佐藤浩之プロジェクトマネージャーはプロジェクトの意義を語ります。

NEDOの佐藤浩之プロジェクトマネージャー(航空・宇宙部機体・装備品ユニットGI基金チーム チーム長)

同プロジェクトは4つの研究開発項目、水素航空機向けコア技術開発(項目1)、航空機主要構造部品開発(項目2)、燃料電池電動推進システムの開発(項目3)、電動化率向上技術開発(項目4)を進めています。「将来の本命技術がまだ定まらないうちは、複数の可能性を同時に検討する必要があります」と、佐藤プロジェクトマネージャーは説明します。このうち、水素航空機向けコア技術開発と航空機主要構造部品開発は2021年度から進められ、具体的に成果を得ています。

発電用エンジンの知見を航空機へ展開

「水素航空機向けコア技術開発」は、川崎重工業が進めています。水素は燃焼時にCO2を排出しないエネルギー源であり、GI基金事業でも水素活用に関する複数のプロジェクトがありますが、川崎重工業は、水素燃料のジェットエンジンを搭載した航空機の実用化を見据え、コア技術の確立を目指します。「長年開発してきた発電用水素ガスタービンエンジンの知見を、航空機用の開発に活かしています」と、開発を先導するエグゼクティブフェロー 航空宇宙システムカンパニー付(水素航空機コア技術担当)の餝雅英氏は語ります。

川崎重工業のエグゼクティブフェロー 航空宇宙システムカンパニー付(水素航空機コア技術担当)の餝雅英氏

現在、研究を進めているテーマは三つです。第1は「水素航空機向けエンジン燃焼器・システム技術開発」です。水素は、大気汚染物質であるNOxを発生しやすい特性があり、本開発では、NOx排出量を従来の化石燃料燃焼時以下に抑えることを目標に掲げます。

第2は「液化水素燃料貯蔵タンク技術開発」です。水素は、液化水素として貯蔵します。同じ距離を飛行する場合、体積はジェットエンジンに利用されるケロシン燃料の約4倍必要です。さらに、液化水素は−253℃という極低温での保管が求められ、飛行中に発生する振動や衝撃にも耐えなければなりません。大容量タンクには保温性と耐衝撃性に加え、軽量性も考慮した構造が不可欠となります。

第3は「水素航空機機体構造検討」です。前述のエンジンおよび燃料タンクの特性を踏まえると、従来の航空機構造では要求を満たせない可能性が生じます。特に燃料タンクは大容量化が避けられません。水素航空機に適した機体の構造を検討する必要があります。

微小の水素噴射でNOxを低減

川崎重工業は、水素のみを燃料とする水素専焼技術をすでに確立している数少ないメーカーの1社です。しかしNOxについては、一層の低減を行う必要があります。さらに、航空機向けエンジンには、定置用エンジンにはない厳しい条件が課せられます。高度変化に伴う圧力や温度の急激な変動への対策、離陸時から巡航時までの幅広い出力レンジへの対応など、考慮すべき要素は多くなります。

水素航空機向けエンジン燃焼器・システム技術開発におけるカギは、水素が燃焼する際に発生する火炎の温度分布でした。「火炎の高温部分が小さくなるよう制御しています」と餝氏は説明します。火炎は温度が高いほどNOxを生成しやすくなります。水素は化石燃料に比べて燃焼温度が高いため、従来の燃焼器構造ではNOx排出量が増加します。

そこで、水素燃料を多数の微小火炎として燃焼させる「マイクロミックス燃焼」と呼ぶ方式により高温部の発生を抑えます。アーヘン応用科学大学が発明した原理で、川崎重工業は同大学との10年以上にわたる共同研究を通じ、発電用ガスタービンエンジンへの応用を進めてきました。

マイクロミックス燃焼器では、環状バーナに直径1mm以下の微細な噴射孔を多数設けます。そこから燃料を小分けに噴射し、多数の微小火炎を形成します。NOx低減と安定燃焼を両立するため、バーナ形状や火炎を形成する燃焼器形状などには最適化が不可欠でした。シミュレーションによる燃焼解析、部品単体での性能計測などでの検証を重ねた結果、試作燃焼器において目標性能を達成できることを確認しています。

バーナの構造。微小な噴射孔から水素を供給して、多数の細かい火炎を発生させる(出典:川崎重工業)

アルミ二重タンクで極低温の液化水素を貯蔵

液化水素燃料貯蔵タンク技術開発では、材料の選定が大きな課題でした。液化水素タンク用の一般的な材料はステンレス鋼です。ステンレス鋼は、強度や加工性、耐食性などの特性のバランスが取れた材料ですが、航空機用途では重量が制約となります。

「タンク重量は水素燃料重量の2倍以下を目標にしました」と、餝氏は語ります。水素燃料は体積こそ従来燃料の約4倍となるものの、重量は約1/3です。このためタンク重量を一定以下に抑えられれば、水素航空機の燃料とタンクを合わせた総重量は、従来機以下にできます。

試作したタンクに液化水素を充填している試験の様子(出典:川崎重工業)

選定した材料はアルミニウムです。アルミニウムはステンレス鋼の約1/3の重量であり、大幅な軽量化が可能です。金属材料であるため、製造技術や品質管理のノウハウも活用できます。タンクは、魔法瓶のような真空二重殻構造とし、高い断熱性と気密性を両立しました。既に目標重量を達成した状態での液化水素充填試験にも成功しています。

さらに、複合材製タンクの検討も進めています。さらなる軽量化が期待できる一方で、配管など金属部品との接合部からの漏洩対策など、新たな技術課題もあります。今後はアルミニウム製タンクと並行して検証を進めていく方針です。

胴体へのタンク搭載を前提とした水素航空機の新構造

水素航空機機体構造検討において最大の課題となったのが、燃料貯蔵タンクの配置です。タンク容量が約4倍で真空二重殻構造の大型タンクを、従来機のように主翼内に搭載することは現実的ではありません。液化水素ポンプや熱交換器など、水素エンジン特有の機器も搭載する必要があります。加えて乗客スペースを確保し、万が一の燃料漏洩に備えた換気などの安全対策も講じなければなりません。

検討されている機体構造は、2つあります。1つは、従来機に近い外観を持つ構造です。燃料タンクを、客室前後、すなわちコックピットの後方と尾翼前方の2カ所に配置します。機体は長くなりますが、従来機と違和感のない形状となります。

もう1つは、燃料タンクを客室左右に配置する方式です。翼と胴体は一体的になり、それに合わせて主翼や尾翼の配置・形状も変更します。客室に窓を設けにくくなるという課題もありますが、「客室内の壁面にモニタを配置し、外の映像を表示する案なども検討しています」と、川崎重工業 航空宇宙システムカンパニー 水素航空機コア技術研究プロジェクト総括部 プロジェクト計画部 基幹職(航空エンジンDiv管理担当)の都筑亮一氏は説明します。

試作した模型と、それを利用して風洞実験をしている様子(出典:川崎重工業)

これらの構造を再現した試験模型を製作し、風洞試験を実施しました。飛行条件をさまざまに変更した試験で空力データを確認しています。今後は、さらに空力解析などを通じて、各部形状の最適化などを進めていきます。

単体からサブシステム、そして統合試験へ

水素燃焼器および燃料貯蔵タンクについては、2026年度以降は単体ではなく、周辺機器を含めたサブシステムとして検証していきます。燃焼器については自社製小型ジェットエンジンに組み込み熱交換器やバルブなどと組み合わせ、燃料タンクではポンプやバルブを含めたサブシステム試験をそれぞれ実施し各種性能を評価します。最終的な目標は、タンクからエンジンまでを接続したトータルシステムでの検証です。「2028年までにサブシステムの検証を終え、2029年ごろには総合検証を行いたい」と餝氏は今後のスケジュールを示します。

機体構造については、サブシステム検証の成果を反映しながら、より最適な設計を追求するとともに、得られた知見を基に標準化団体との意見交換を進めていく予定です。水素エンジン航空機は、従来機とは異なる設計思想や安全要件が求められるため、規格整備も重要なテーマとなります。「関係者との意見交換を重ねることで、水素航空機の実用化を早めていきたい」と餝氏は意欲を語ります。

今回の「水素航空機向けコア技術開発」は、GI基金事業としては2030年までですが、その後10年近くをかけて社会実装を進めていく、まさに未来を見据えた壮大な取り組みです。「技術面では開発が着実に成果を上げていますが、これに加えて機体OEMを中心とした航空業界全体において水素航空機導入の機運をいかに高めていくかという点はNEDOや経済産業省が、川崎重工業をはじめとする事業者各社と共に取り組んでいくべき課題です」とNEDO航空・宇宙部機体・装備品ユニットGI基金チーム主査の堀海貴士氏は語ります。さらに堀海氏は、「水素燃料のコスト低減や水素インフラ整備といった社会・環境的要素の強い課題は、日本だけにとどまらず各国を巻き込んだ世界的な取り組みが必要です。非常に困難ですが、やりがいと夢のあるテーマです」と、今後の活動に関して意気込みをみせます。

左から、川崎重工業の航空宇宙システムカンパニー 水素航空機コア技術研究プロジェクト総括部 プロジェクト計画部 基幹職(航空エンジンDiv管理担当)の都筑亮一氏、川崎重工業のエグゼクティブフェロー 航空宇宙システムカンパニー付(水素航空機コア技術担当)の餝雅英氏、NEDOの佐藤浩之プロジェクトマネージャー(航空・宇宙部機体・装備品ユニット GI基金チーム チーム長)、NEDOの堀海貴士主査(航空・宇宙部機体・装備品ユニット GI基金チーム)

複合材の一体構造で補助翼を30%軽量化

熱可塑複合材を用いて一体構造とすることで軽量化を達成した補助翼(エルロン)

「ナノテクノロジー展」のNEDOブースで存在感を放っていたのが、「航空機主要構造部品開発」の一環として展示された、軽量化を特徴とする補助翼(エルロン)です。新明和工業が開発したエルロンは、材料に熱可塑複合材を採用しました。全長約2500mm、幅約700mmの大きさの試作品で、GI基金事業の5年間の研究開発成果として披露しました。

エルロンは、主翼後縁の外側に取り付ける可動翼で、機体を左右に傾ける「ローリング」を制御します。航空機の脱炭素化を進めるうえでは、燃料効率向上は欠かせず、構造部材の軽量化は必須です。従来エルロンは金属性が主流でしたが、熱可塑複合材に置き換え、従来と同等の強度・耐久性を維持しながら約30%の軽量化を達成しました。

エルロンの断面形状は、細長い三角形に近い形です。熱可塑複合材製エルロンでは、上下の外板の間に「コア」と呼ばれる複数の板材を挟み込む構造を採用しました。部材はいずれも複雑な形状で、これらを飛行中の過酷な環境に耐えるため、強固に接合する必要があります。独自に開発したプレス成形技術や溶着技術を活用して、複数部材を一体構造として成形することに成功しました。その結果、軽量化に加え、製造工数を約80%、製造コストを約50%削減する成果も得ています。

新明和工業は、今回の開発成果を基に、2035年度の事業化を目指しています。

川崎重工業や新明和工業による次世代航空機実用化への取り組みは、「世界的にも先進的な試みです」と佐藤プロジェクトマネージャーは語ります。現在、日本には完成機メーカーは存在しませんが、こうした要素技術開発を起点に、新たな航空機産業が広がることも期待されます。NEDOは、クリーンな航空機開発を支援することで、航空業界の脱炭素化を後押ししていきます。

※肩書きは取材時(2026年2月)